【韓国昔話39】短くなったズボン
昔、ある村に、あるお金持ちが、三人の娘と一緒に暮らしていました。
お金持ちは、自分の娘たちが、この世でもっとも親孝行な娘たちだと思っていました。
ところが、村の人々は、そのお金持ちの娘たちをほめないで、隣村に住んでいる学者の娘たちを親孝行だとほめたたえました。
きょうも、偶然、そのお金持ちが井戸端を通りがかると、村のおばさんたちが学者の三人の娘たちをほめている言葉を耳にしました。
「やはり、学者さんの娘たちは親孝行だねえ」
「本当にそうだ。学者さんは、親孝行な娘がいるので幸せだ」
「お金なんかより、親孝行な子供がいるほうがもっと幸せだねえ」
その話を聞いたお金持ちは、なぜ学者の娘たちばかりがほめられるのか、気になって、学者の家を訪ねてみることにしました。
翌日、お金持ちが学者の家をたずねると、家の中から学者が出てきて、お金持ちを喜んで迎えてくれました。
ところが、よく見ると、学者は、ひざ小僧が出ている短いズボンをはいていました。
「おや、なぜそんなに短いズボンをはいているのですか」
お金持ちが聞くと、学者はからからと笑いながら答えてくれました。
「数日前、新しくつくった服を着てみたのですが、ズボンの丈が長すぎて、歩くとずるずるすそを引きずってしまったのです。
それで、娘たちに、ズボンの丈を五寸だけ短くしてくれと言ったのです。
ところが、翌日、出かけようと思ってズボンをはいてみると、ズボンがこのように短くなっていたのです」
そう言って、学者は、その理由をくわしく話してくれました。
「それで、娘たちに聞いたのです。すると、一番上の娘が首をかしげながら、
『きのうの夜、私は、ズボンを五寸だけ短くしておきました』と答えました。
すると、二番目の娘がびっくりして言いました。
『ええっ! 私は、そんなこともしらず、そのズボンをまた五寸短くしておきました』
その話を聞いていた三番目の娘は、泣きそうな顔になって言いました。
『どうしましょう! 私は、お姉さんたちが短くしておいたのもしらず、きょうの朝、また五寸短くしてしまいました』
私は、娘たちの親孝行の心に涙が出ました。それで、
『このズボンこそ、私に一番合ったズボンだ』と言ってなぐさめてあげ、この短いズボンをはいているのです」
この話を聞いたお金持ちは、とても感心して、なるほどとうなずきました。
家に帰ってきたお金持ちは、自分の三人の娘たちも、本当に親孝行かどうかを確かめたいと思って、娘たちに、
「ズボンの丈が長いので五寸だけ短くしてくれ」
と言いました。
翌日、お金持ちは、わくわくしながらズボンをはいてみました。ところが、ズボンは、きのうとまったく同じで、何も変わっていませんでした。
がっかりしたお金持ちは、三人の娘を呼んで、そのわけを聞いてみました。
すると、三人が三人とも、
「お姉さんがするかと思って」、
「妹がするかと思って」
と言って言い訳をするではありませんか。
お金持ちは、そのようすを見ながら、「はあっ」と大きなため息をついたそうです。
終