【韓国昔話24】カササギの裁判
昔、昔、遠い昔、一匹のハエが、スズメに追いかけられて無我夢中で飛んでいました。
ハエは、ありったけの力をふりしぼって逃げ回りましたが、すぐにスズメに捕まってしまいました。
ハエは、スズメに言いました。
「おまえはなぜ、罪のない私を捕まえて食べようとするのだ?」
スズメは、答えるのもばかばかしいと思って、そのままハエをごくりと飲み込んでしまおうとしました。すると、ハエが、
「ちょっと待った! 食べる前に、早く答えてくれ」
とさいそくしました。
仕方がないといった様子でスズメは答えました。
「おい、おまえは、ほんとうに何の罪もないと思っているのか。おまえは、いろんなきたないものを足につけては食べ物の上に座り込み、人に病気をうつしているではないか。人々がおまえの座った食べ物を食べて、何度、病気になったと思っているのだ。そればかりではない。おまえは昼寝をしている人の顔におりてきて、ちょろちょろはいまわって眠りを覚ましているではないか」
スズメの言葉を聞いて、ハエは、声を張り上げて言い返しました。
「それは、おれたちハエが生きていくためには、やむをえないことだ。そういうおまえは、よいことばかりしているのか。おまえは畑にみのった穀物を食いあらしたり、罪のない虫たちを何百匹も捕まえて食べたりしているではないか。文句があるなら言ってみろ」
ハエの言葉を聞いていたスズメは腹が立ってきました。
「それがどうして罪なんだ?」
「スズメよ、おまえはほんとうに笑わせるやつだな。それが罪でなくて、何が罪だ?」
ハエの言葉を聞いて頭に血がのぼったスズメが言いました。
「それなら、おれたち二匹の中で、どちらがほんとうに罪をおかしているのか、カササギ※さんに聞いてみようではないか」
「いいだろう」
ハエがぶんぶん飛びまわりながら答えました。
このようにして、スズメとハエは、カササギの前で裁判を受けることになりました。
まず、スズメがハエの罪を並べ立てました。カササギは、うなずきながら耳を傾けてくれました。
次に、ハエがスズメの罪を一つ残らず言いました。今度もカササギは、うなずきながら熱心に聞いてあげました。
「カササギさん、どちらが罪をおかしているのか、おっしゃってください」
スズメとハエが声をそろえて言いました。すると、カササギが、スズメとハエをかわりばんこに見ながら言いました。
「おまえたちは、両方とも罪をおかした」
「えっ? 私たちが両方とも罪をおかしたですって?」
スズメとハエが同時に言いました。
「そうだ。おまえたちは、両方とも、人に害をおよぼす罪をおかした。しかし、スズメよ。おまえは、ハエよりも罪が大きい。おまえは、ハエが人々に病気をうつしていると言うが、とても危険な病気をうつしているわけではない。ところが、おまえは、人々が春から真心を込めて育ててきた穀物を、実りもしないうちに取って食べてだいなしにしているばかりでなく、おまえの腹を満たすために、数えきれないほど多くの虫たちを取って食べているではないか。それゆえに、おまえは罰を受けなければならない」
スズメは顔が真っ青になりました。そして、すぐにそこから逃げ出そうとしました。しかし、自分より何倍も大きなカササギから逃げ出すことなどとうてい不可能でした。
スズメは、カササギに捕まって、何十回もふくらはぎをたたかれました。
この時にたたかれたふくらはぎがあまりにも痛くて、スズメは、今でもチョンチョンとはねながら歩くのだそうです。
いっぽうハエはというと、前足をスリスリこすりあわせて何度もカササギに感謝しました。そして、この時のくせが抜けず、今でもハエは、前足をしきりにこすりあわせるのだそうです。
終
※カササギ:韓国では人間に喜びをもたらしてくれる益鳥とされている。