【韓国昔話23】オソンとハヌム
蒸し暑い夏が過ぎ、いつしか秋がやってきました。
ある日、ハヌムは、オソンの家に遊びにやってきました。オソンの家の庭の大きな柿の木には、真っ赤に熟れたおいしそうな柿がなっていました。
柿の木の枝は、垣根を越えて隣の家にまで伸びていました。
「いやあ、あの柿はほんとうにおいしそうだ!」
ハヌムが、垣根を越えたところにある柿を指さして言いました。ハヌムの心を察したオソンは、下男を呼んで、
「柿を取ってくるように」
と言いました。すると、下男が答えました。
「あの柿は取ることができません」
「柿が取れないとはどういうことだ?」
「隣の家の下男たちが、『垣根を越えた枝は自分たちのものだ』と言い張って、柿を取れなくしているのです」
「いや、そんなことが‥‥」
ハヌムがあきれ返ったように言うと、オソンも言いました。
「そんな話がどこにある? いくら枝が垣根を越えたとしても、柿の木はうちのものではないか」
「本当にそうだ。隣に住んでいる人はいったいだれだい?」
「クォン長官様だよ」
オソンの隣の家には、クォン・チョル長官が住んでいました。クォン長官は、壬辰倭乱のとき、幸州山城の戦いで大きな勝利を挙げたクォン・ユル将軍の父親でした。
クォン長官は、とても善良でなさけぶかい人でしたが、その家の下男たちは、ときどき、オソンの家の下男たちを見下したように扱いました。
「何かいい方法はないだろうか」
オソンとハヌムは、頭をつき合わせて考えました。突然、ハヌムが大きな声で言いました。
「いい考えが浮かんだ」
「そうか。それは何だ?」
オソンは、ハヌムの話を聞いて、うなずきながらほほえみました。オソンとハヌムは、すぐにクォン長官の家に訪ねていきました。
二人の少年は、クォン長官の家の下男を前に立てて庭に入っていき、長官のいる部屋の前に立ちました。
「外にだれか来たのか?」
人の気配を感じたクォン長官が聞きました。
「長官様、わたしの無礼をお許しください」
そう言うと、オソンは、障子戸の中に、いきなりにゅっと腕を押し込みました。本を読んでいたクォン長官は、障子戸を突き破って入ってきた腕を見てびっくりしました。
「何事だ、どこのどいつがこのように無礼なことをするのだ?」
「わたしです。隣に住んでいるオソンです」
「オソンと言えば、隣の李次官宅の息子ではないか。いったいこの無礼な行動は何だ?」
オソンは、手を押し込んだまま、クォン長官にていねいに謝罪したのち、再び低い声で言いました。
「長官様、今、この腕は誰の腕ですか」
「それはおまえの腕だろう、ほかに誰の腕だというのだ?」
「今、この腕は、部屋の中に入っているではないですか」
「いくら部屋の中にあるからといって、おまえの体についているのでおまえの腕だろう」
クォン長官は、オソンの唐突な質問に好奇心を感じました。
「それならば、もうひと言おうかがいします。あの垣根の向こう側から伸びてきた柿の木の枝は誰の家のものですか?」
クォン長官は、オソンが何のために部屋の戸を突き破って腕を押し込んだのか、すぐにその意味を悟りました。
“文才が並々ならぬというが、やはり大した子供だ!” このようなことを考えながら、クォン長官が答えました。
「うむ、それはおまえの家のものだろう」
「枝がこちらのお宅に越えてきてもですか?」
「いくらそうであっても、根がおまえの家にあるではないか」
「それなら、なぜ長官のお宅の下男たちは、わたしたちの下男が柿を取れないようにするのですか」
「わが家の下男たちの考えが足りなかったようだ。二度とそのようなことがないようにしよう」
そのようにして、オソンとハヌムは、よく熟れた柿をおいしく食べることができたそうです。
終