【韓国昔話18】木靴売りと扇子売りを持った母親の心配
昔、ある村に、二人の息子と母親が住んでいました。
暮らしは楽ではありませんでしたが、二人の息子は、母親をとても大切にしていました。
近所の人々は、このような母親を見てうらやましく思いましたが、母親は、二人の息子が心配で、一日として心の休まる日がありませんでした。
数日間ふりつづいた雨がやみ、きらきらした太陽が顔を見せた日でした。隣の家のおばさんが、その母親を訪ねてきました。
「ほんとうに、久しぶりに見る太陽ですね」
隣の家のおばさんが明るく笑いながら言いました。しかし、母親の顔は暗く沈んでいました。
「それはそうですね。でも、このように晴れると、下の息子の木靴※が売れなくなってしまうんですよ」
母親は、はあっとため息をつきながら言いました。
また、雨がしとしと降っていたある日のことです。母親は、縁側に座って、空をうらめしそうに見上げていました。
「きょうはまた、何を心配しているんですか」
隣の家のおばさんが、雨をさけようと、すばやく軒下に入ってきて言いました。すると、母親は、
「薄情な空ですよ。このように雨が降れば、上の息子の扇子が売れないではないですか。早く雨がやんでくれたらいいんですが」
と、はあっとため息をつきながら答えました。
「晴れても心配、雨が降っても心配で、ほんとうに困りますね。お母さん、このように考えてみたらどうですか」
「どのようにですか」
「晴れれば、上の息子の扇子がよく売れるのでよいし、雨が降れば、下の息子の木靴がよく売れるのでよいとです」
「まあ! なぜもっと早くそのように考えることができなかったんでしょう」
そう言って、母親は、久しぶりに、にっこりと笑いました。その日以来、母親は、心配をせずに暮らしたということです。
終
※木靴:昔、雨の日などにはいた木製のはきもの