【韓国昔話15】天にある畑
昔、韓国の※使臣として中国に行った人がいました。
ところで、中国の役人の中に、中国の自慢話ばかりをする人がいました。
「わが国中国は、万里の長城もつくりましたよ」
「あの平原は、あなたの国、韓国よりも広いですよ」
このような調子で、その中国の役人は、韓国の使臣を見るたびに、中国の自慢話をしました。
そのような話を聞くたびに、韓国の使臣は気分がよくありませんでした。小さな国から来たので、ばかにされていると思ったからです。
ある日のことでした。その日も、中国の役人は、韓国の使臣を見るなり、また中国の自慢話を始めました。
「あの塔のいただきまで登ろうとすれば、半日はかかりますよ。あなたの国、韓国には、あのような塔がありますか」
すると、たまらなくなった韓国の使臣は、
「何をおっしゃいますか。わが国は、土地は狭くても、高いものはいくらでもありますよ。天の畑まであるのですから」
と、思わずウソをついてしまいました。
ところが、その言葉を聞いた中国の役人は、
「なんと、そのような不思議なことが!」
と言って、韓国の使臣の話をそのまま信じてしまいました。そして、
「そのようなものがあるのなら、一度、ぜひ見物させてください。どうしても一度見てみたいです」
と、韓国の使臣にたのみこんできました。
そして、中国の役人は、韓国の使臣のあとについて韓国までやってきました。韓国の使臣は、目の前が真っ暗になりました。
中国の役人は、到着するやいなや、
「早く天にある畑を見物させてください」
と言いました。
韓国の使臣は、
「きょうはもう暗くなったので、あした見に行くことにしましょう」
と、とりあえず、そのようにごまかして家に帰ってきました。
しかし、家に帰ってきても、問題が解決するはずはありません。韓国の使臣は、そのまま布団をかぶって寝込んでしまいました。
すると、老いた父が心配して、
「何か心配事でもあるのか」
とたずねてきました。
父から問われ、使臣は、これまでのいきさつを話し、
「公然とウソをついたせいで、大恥をかくことになりました」
と言いました。
話の一部始終を聞いた父は、
「だから、むやみやたらなことを言ってはいけないのだ。しかし、一度こぼしてしまった水は、もう元にはもどらないものだ。何かよい方法を考えよう」
と言って、あれこれ思案をめぐらしはじめました。
しばらくして、
「おお、こうすればよい!」
そう声をあげた父は、韓国の使臣を前に座らせ、
「これこれこのようにしなさい」
と解決方法を教えてあげました。
父の説明に、韓国の使臣も、ひざをぽんとたたきました。
翌日の朝、韓国の使臣は村をまわって、老人と子供たちを集めました。
そして、老人たちにはおいしい食事を出してあげ、子供たちには銅銭を一枚ずつあげて言いました。
「今から、老人の皆さんは、楽しく踊りを踊ってください。そして、子供たちは、一か所に集まって悲しそうに泣き続けなさい」
使臣が指図すると、老人たちは食事をしながら、歌を歌い、踊りを踊りはじめました。子供たちは、片隅に集まって、悲しそうに泣きはじめました。
そのようすを確認したのち、韓国の使臣は、中国の役人を迎えに行きました。中国の役人は、韓国の使臣を見るなり言いました。
「さあ、天にある畑を見せてください」
使臣は、中国の役人を連れて歩き出しました。そして、老人と子供たちがいる所にやってきました。
「きょうは何の日ですか。朝から何の宴をしているのですか」
中国の役人が、老人たちを見ながらたずねると、韓国の使臣が言いました。
「何かの日ではなく、わけがあってあのようにしているのです。あの老人たちは、六十年前に、天にある畑を耕しに行って、きのうの晩、帰ってきたのです。天の畑は、行くのに三十年、帰ってくるのに三十年かかるのですが、死なずに生きて帰ってきたので、うれしくてあのようにしているのです」
「天にある畑は、そんなに遠い所にあるのですか。それでは、あの子供たちは、なぜ泣いているのですか」
中国の役人が、今度は、子供たちを指さして言いました。すると、韓国の使臣が言いました。
「天にある畑を耕しにいくので、泣いているのです。今から行けば、帰ってくるのは六十年後になるので、あのように泣くしかないのです」
韓国の使臣の言葉に、中国の役人はびっくりしてしまいました。韓国の使臣は、続けて言いました。
「私たちも、あの子供たちと一緒に出発しますので、準備が整うまで、しばらく待ってください」
すると、中国の役人が言いました。
「いやいや、行くのに三十年、帰るのに三十年かかるのなら、行く途中で死んでしまうかもしれないではないですか。私は、このまま失礼します」
そう言うと、中国の役人は、そのまま中国に逃げかえってしまったそうです。
終
※使臣‥‥王様の命令を受けて、外国に使いをする人。