【韓国昔話11】石柱裁判
昔、ある絹商人が、あちらこちらの村をまわりながら絹織物を売っていました。
ある日、絹商人は、峠を登る途中、疲れたので、荷物をおろして、お墓の前にある石柱にもたれて座り込みました。
遠くのほうにあるこぢんまりした村が、絹商人の目に入ってきました。山鳥の鳴き声が聞こえ、すずしい風がふくと、絹商人のまぶたはだんだんと重くなり、そのまま眠ってしまいました。
どれくらい時間がたったでしょうか。絹商人が目を覚ますと、石柱の前に置いてあった絹織物の荷物が、あとかたもなく消え去っていました。
絹商人は、わんわん泣きながら、村の郡守を訪ねていきました。
「おまえがお墓の前で休んでいるのを見た者はいないのか」
郡守は、絹商人におだやかに聞きました。
「私が背中をもたれていた石柱以外には、何も見当たりませんでした」
すると、郡守は、
「それでは、その石柱が、おまえの荷物を盗んでいったどろぼうを知っているはずだ。おい、おまえたち、早く行って、その石柱を捕まえてこい」
と、役人たちに命じました。
「石柱を捕まえてこいだって?」
罪人を捕まえる役人たちは、たがいに顔を見あわせてあきれかえりました。
すると、郡守がもう一度、大きな声で言いました。
「何をしているのだ? さっさと石柱を捕まえてこい」
絹商人も、同じようにあきれかえりました。
しばらくして、役人たちが、ウンウンうなりながら、縄をかけた石柱をかついできました。
そのあいだに、村のいたる所では、郡守が石柱を裁判にかけるといううわさでもちきりになり、役所は、裁判を見物するために来た人々でいっぱいになりました。
「誰が絹織物の荷物を盗んでいったのか、ぐずぐずせずに早く言え」
郡守が石柱に向かってしかりとばしました。しかし、石柱が答えるはずはありませんでした。
「こいつ、言わないところを見ると、おまえもどろぼうの一味だな。おい、石柱が白状するまで、石柱をむちでうちすえろ」
郡守が厳しい口調で命令を下しました。
すると、役人たちがしぶしぶ出てきて、石柱にむちをうちおろしました。そのようすを見ていた村の人々は、「ははは」、「ほほほ」と笑いました。
それを見た郡守は、
「厳粛な裁判の席で笑うのは誰だ? 今、笑った者たちは、全員つかまえてろうやに入れろ」
と言い放ちました。
このようにして、ほとんどの村の人々が牢屋に入れられてしまいました。
「郡守さま、お許しください」
村の人々は、ひざまずいて、郡守に許しを請いました。
すると、郡守は、
「よろしい。罪を許してもらいたければ、あすの朝までに、絹を一反ずつ持ってくるように」
と言って、村の人々を帰してあげました。
翌日、村の人々が絹を一反ずつ持って、役所に再び集まってきました。郡守は、村の人々が持ってきた絹を一か所に集め、絹商人に言いました。
「この絹の中に、おまえの絹があるかどうか、探してみなさい」
絹商人は、あちこちをかき回して調べてみました。そして、一反の絹を選び出して、喜びの声をあげました。
「郡守さま、これが私の絹です」
郡守は、絹商人が選び出した絹を持ってきた人に尋ねました。
「おまえは、この絹をどこで手に入れた?」
「下の村の絹商人から買いました。今も、下の村には、その絹商人がいるはずです」
郡守は、役人たちに、すぐに下の村に行って、その絹商人を捕まえてくるように命じました。
役人たちに捕まえられてきた絹商人は、最初はしらばくれていましたが、結局は、「自分が絹を盗みました」と、本当のことを言いました。
郡守は、絹商人に言いました。
「ははは、なくした絹織物を探すために、このようなおかしな裁判をしたのだ。もうどろぼうを捕まえたので、おまえが持ってきた絹織物をもとにおさめなさい」
このようにして、絹商人は、なくした絹織物の荷物を取り戻せたそうです。
終