【韓国昔話10】召使の詩
昔、昔、あるところに狩りがとても好きな両班(ヤンパン)※がいました。
ところで、この両班はとてもケチで、召使たちに食べさせるご飯までも出し惜しみするほどでした。
ある日、両班は、一人の召使を連れて狩りに行くことにしました。召使は、弓と矢を準備したのち、
「昼食は、どういたしましょうか」
と、両班にたずねました。
すると、両班は、
「なに? 仕事に行くわけでもないのに、ご飯など必要ないではないか!」
と言って、召使をどなりつけました。召使の昼食まで用意するくらいなら、いっそ二人とも昼食を抜かすほうがいいと思ったからです。
両班は、雪がうずたかく積もった山を登りながら言いました。
「このように雪がたくさん積もっているので、狩りをするにはとてもいいなあ」
二人は、険しい山を登ったり、深い谷間を下りたりして、何も食べずに、一日中、狩りをしてまわりました。
しかし、捕まえたものといえば、一羽のキジだけでした。とうとう、歩きつかれた召使が、雪の上に座り込んで言いました。
「だんな様、おなかが空いて、もうこれ以上歩くことができません」
すると、両班も、
「私もおなかが空いて、これ以上歩くことができない。とにかく、そのキジでも焼いて食べよう」
と言いました。
いくらケチな両班でも、おなかが空くことはどうすることもできませんでした。
召使は、両班の言葉に喜び勇んで、あちこちから木の枝を拾って来て、火をおこしました。
「ぱちぱち、ぱちぱち」
木の枝が燃える音と共に、肉のあぶらがしたたり落ちました。両班と召使は、ごくりと、同時につばを飲み込みました。
肉の香ばしいにおいが漂ってくると、両班は、だんだん肉をひとり占めしたくなりました。それで、何とか、その肉を自分一人で食べる方法はないものかと考えました。
しばらくして、両班が召使に言いました。
「おい、肉が完全に焼けるまで、詩を一首ずつ、つくることにしよう。そして、先に詩をつくった人が、キジの肉をすべて食べることにしよう」
両班は、わざと召使にできないことを言い出したのです。
「私のような者に、どんな詩をつくれというのですか」
思ったとおり、召使はびっくりしてとびはねました。
「言われたら、言われたとおりにすればいいだろう。ぶつくさ言うな。このような所に来て、ただ食べるだけなら、けものと同じではないか」
両班は、うわべでは腹を立てるふりをしましたが、心の中ではしめしめと思いました。そして、自信満々な声で、
「四行の詩をつくることにし、言葉の終わりには『か』という文字をつけることにしよう。おまえは無学なので、三行にしてもよい」
と言い、どんな詩をつくろうかと考えました。
その時です。
召使が、キジの片方の足を引き裂いて言いました。
「もう肉は焼けただろうか。おいしいだろうか。どれ、一つ食べてみようか」
そのように言うと、召使は、がつがつと肉を食べはじめました。
「あっ、こいつ。詩もつくらずに食べるとは、どういうことだ!」
両班は、腹を立てて大声をあげました。すると、召使は、
「私は、言われたとおりにしただけですよ」
と言って、もう片方の足を引き裂いて言いました。
「もう肉は焼けただろうか。おいしいだろうか。どれ、一つ食べてみようか。どうです、間違いなく、終わりに『か』という文字が入っているではありませんか」
そう言って、召使は、残りの肉まですべて食べてしまいました。両班は、何も言い返すことができなかったそうです。
終
※両班‥‥家柄と身分の高い上流階級の人。