【韓国昔話9】三年峠
昔、ある村であった出来事です。
その村には、傾斜が急な峠があり、ここで転ぶと、三年しか生きられないという言い伝えがあり、「三年峠」と呼ばれていました。
それで、村の人々は、三年峠を通ることを嫌い、たまたま通ることになっても、転ばないように、とても気をつけて歩きました。
ある日、一人のおじいさんが市場に行った帰り、三年峠を越えなければならなくなりました。
おじいさんは、転ばないように、ノソノソと亀のようにはって、その峠を越えました。そして、ほとんど峠を登り終わったときです。腰を伸ばして立ち上がろうとした瞬間、おじいさんは、そのまま後ろにころっと転んでしまいました。
「ああ、三年峠で転ぶとは! もう三年しか生きられないのか」
おじいさんは、地をたたいて泣きました。
「おばあさん、もう、わしは死んだ」
肩をがくっと落として家に帰ってきたおじいさんが、おばあさんを見て、今にも泣き出しそうな顔をして言いました。
「それはどういうことですか。このように何ともないのに死ぬなんて?」
おばあさんは、心配そうな顔で聞きました。
「三年峠で転んでしまったのだ」
そう言って、おじいさんは、すすり泣きはじめました。
「気をつけなければだめでしょう。こともあろうに、なぜ三年峠で転んだりしたのですか。ああ、どうしましょう?」
おばあさんも、泣き顔になりました。
この日以降、おじいさんは病気になって、床に伏してしまいました。
おばあさんがお粥をつくってあげても、おじいさんは、
「三年しか生きられないのに、食べてどうするのだ」
と言って、後ろを向いて横になってしまいました。
おじいさんの病気は、日増しに深刻になっていきました。体に良いという薬を買ってきて飲んでも、心の病気はなおすことができませんでした。
そのようなある日、隣の家に住んでいる少年が、おじいさんを訪ねてきて言いました。
「おじいさん、長生きする方法があります」
おじいさんは、少年の言葉を聞いて、がばっと跳ね起きました。
「それは何だ? 早く話してみなさい」
「もう一度、三年峠に行って転ぶのです」
「何だと。三年峠でもう一度転べだと? おまえは、わしをからかっているのか」
そう言って、おじいさんは、かっと腹を立てました。
少年は、にこにこ笑いながら言いました。
「おじいさん、私の話をよく聞いてください。三年峠で一度転べば、三年しか生きることができないのなら、二度転べば、六年、三度転べば、九年は生きられるのではないですか」
少年の言葉を聞いて、おじいさんはひざをぽんとたたきました。
「おお、そうか。そうだった。おまえの言うとおりだ。なぜもっと早く、そのことを思いつかなかったのか。すぐに三年峠に行って転ばなくちゃいかん」
そう言って、おじいさんは、すぐに寝床から起き上がって、三年峠に駆けていきました。
三年峠につくと、おじいさんは、そこでごろっと転がりました。
「もうこれで、六年は長生きすることができるぞ」
おじいさんは、再び立ち上がり、峠の上に登っていって、そこで何度も何度も繰り返して転がりました。そして、家に帰ってきて、以前のように健康に暮らしました。
三年後、おじいさんは、市場に行った帰り、三年峠を越えているときに、突き出た石につまずいて転んでしまいました。
「はっはっはっ。きょうで、三年峠で転んだ回数は五十回になったので、あと百五十年は生きられるな」
おじいさんは、気分よく笑いながら、三年峠を下りていきました。そして、いつまでも幸せに暮らしたということです。
終