【韓国昔話7】お金より大切な兄弟の友愛
昔、昔、ある村に、貧しいながらも、仲むつまじい兄弟が住んでいました。
兄弟は、ひときれのもちを手に入れても、決して一人では先に食べることがありませんでした。いつもお互いを待ったのち、分けあって食べました。
兄弟は3年間、別の村に行って作男(やとわれて田畑をたがやす男)としてはたらきながら、いっしょうけんめいにお金をためました。そして、故郷に帰る川を渡るために、船を借りました。
「弟よ、これまでずいぶん苦労しただろう?」
兄が弟の肩に手を置いて言いました。
「なんですか、お兄さん。そのようなことはおっしゃらないでください。苦労ならば、お兄さんのほうがもっとされたでしょう。仕事も忙しいのに、このおろかな弟のめんどうをみるために、どれほど大変でしたか」
弟も、兄の肩に手を置きました。
「はははっ」
兄と弟は、互いに顔を見合わせながら、気分良く笑いました。
しばらく行くと、遠くに村が見えはじめました。兄が荷物をまとめていると、突然、弟が大きな声を上げました。
「お兄さん、こちらに来てみてください」
「どうしたんだ?」
兄が弟のそばに来てたずねました。
「お兄さん、あそこに輝いているのは、もしや、金塊ではありませんか」
弟が、向こうの川底を指さして言いました。
「金塊だと? どれ見てみよう」
兄は、目を大きく開いて見てみました。それは金塊にまちがいありませんでした。それも、二つの金のかたまりが、並んで、川の中できらきら輝いていたのです。兄弟は、船をまわしていき、金塊をひろいました。
「まったく、われわれが金塊をひろうとは、このようなひろいものがあっていいものだろうか」
兄は、信じられないといった表情で、金のかたまりをなでまわしました。
金塊を一つずつ分けあった兄弟は、再び船をこいで村に向かいました。
ところが、それまで、いっときも口を閉じることなく、親しく話を交わしていた兄弟は、ひと言も言葉を交わさなくなりました。
いつしか、船は村につきました。
そのときです。いきなり弟が金塊を川の中に投げいれました。その姿を見て、兄がびっくりして言いました。
「あっ! 弟よ、なぜ金塊を川の中に投げるんだ?」
すると、弟が言いました。
「お兄さん、金塊を手にするまでは、私はお兄さんをとても深く慕っていました。ところが、金塊を手にしたのち、どうすればお兄さんの持っているその金塊まで自分のものにできるだろうかと考えるようになったのです。金塊のために、そのようなことを考えるとは‥‥」
弟が話し終えると、今度は、兄が金塊を遠く、川の中にほうりなげました。
「うん。私も金塊を持ってから、心がとても重くなった。われわれ兄弟の仲にひびをいれる金塊ならば、千万個ひろったとしても、決して自分たちのものにしてはいけない」
心が軽くなった兄弟は、再び肩を組んで、仲よく話を交わしながら家に帰っていきました。
終