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facts_3分で社会を読み解く 36
櫻井氏と中西氏の共著『統一教会』の問題点

ナビゲーター:魚谷 俊輔

 このシリーズの33回34回で、櫻井義秀氏と中西尋子氏が家庭連合に対して中立的な研究姿勢から極めて批判的な姿勢に豹変(ひょうへん)したいきさつについて説明した。

 その上で今回は、彼らの共著『統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福』の問題点についてまとめてみたい。
 それは一言で言えば、「立場性」の問題だ。

 この本は客観的で価値中立的な研究ではなく、批判的立場からの研究である。
 なにも批判的な研究が悪いと言っているのではない。むしろ問題は資料や情報源にある。

 櫻井氏の研究の主要な情報源は、家庭連合に反対している牧師、脱会カウンセラー、弁護士などのネットワークである。
 そこは元信者の宝庫であり、「青春を返せ」裁判のための陳述書や証拠書類という形で資料は山のようにある。極めて包括的な資料がいとも簡単に手に入り、インタビュー対象も探さなくても紹介してもらえるのである。

 しかしそれらは、教会への入信を後悔している元信者の証言という点で、強いネガティブ・バイアスがかかっている可能性と、裁判に勝つために脚色された可能性の高い、偏った資料である。

 櫻井氏はなぜ中西氏を共同研究者として選んだのであろうか。
 櫻井氏の研究は脱会した元信者の証言に依拠した研究であり、一宗教団体の信仰の在り方について研究しているにもかかわらず、現役信者に対する聞き取り調査を全く行っていない。

 これではいくらなんでもサンプリングが偏っているというそしりを免れないので、もともと全く別の研究をしていた中西氏を共同研究者として巻き込んで、「現役信者の証言も聞いていますよ」というアリバイを作るために、彼女の調査結果を利用したのである。

 その結果、客観的で中立的であった中西氏の研究は、批判的な論調に変質させられた。
 もともとの中西氏の調査結果は、大多数の在韓祝福家庭夫人は経済的には楽でなかったとしても何とか平穏無事に暮らしており、家庭連合の結婚は、男女が好意を寄せ合った結果の結婚とは異なるが、彼女たちにとって自己実現になり得るというものであった。

 しかしそれでは家庭連合を批判したことにならないので、突如として取って付けたような批判を展開することにより、この本で中西氏の担当した部分は、論理的に破綻したちぐはぐな主張になってしまった。

 櫻井義秀氏と中西尋子氏の共著『統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福』は、このような「不幸な出会い」によって誕生した本である。

【関連情報
書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』207

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