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2014年05月19日

【韓国昔話29】わかがえる泉

【韓国昔話29】わかがえる泉

昔、昔、ある村におじいさんとおばあさんが住んでいました。

この年老いた夫婦は、毎日、山に行ってたきぎを取りながら、貧しく暮らしていましたが、善良で、よく働き、なによりも、とても仲の良い夫婦でした。

しかし、ただ一つ残念なことは、この夫婦には子供がいませんでした。

ある日、おじいさんは、たきぎを取るために山の中に入っていきました。

たきぎをひとたば取ったのち、おじいさんがあせをふいていると、どこからか、聞きなれない美しい鳥の鳴き声が聞こえてきました。

「本当に美しい鳴き声だなあ!」

おじいさんが息を殺して、鳴き声のするほうを見てみると、真っ青な羽をした一羽の小鳥が地面の上を低く飛んでいました。

「生まれて初めて見る鳥だなあ。本当に美しい!」

おじいさんは、もっと近くで見ようと思い、そろりそろりと近づいていきました。

ところが、おじいさんが近づけば近づくほど、その鳥は、少しずつ、少しずつ、おじいさんを導くように前に向かって飛んでいくではありませんか。

おじいさんは、われを忘れて鳥のあとについていきました。

しばらくして、その鳥は、泉のある場所にたどりつき、泉のまわりをぐるぐると飛びまわったのち、高くまいあがっていってしまいました。

鳥が飛んでいった空をぼんやり見つめていたおじいさんは、たきぎを取っていたことを思い出し、もと来た道を戻ろうとしました。

すると、先ほど、鳥がぐるぐる飛び回っていた泉がおじいさんの目にとまりました。とても水がきれいな小さな泉でした。

「のどでもうるおしていこう」

おじいさんは、両手でひとすくい、泉の水をすくって飲みました。

すると、水がのどを通りすぎるやいなや、体中から力が抜け、突然眠くなってきました。

「あれ、どうしたことだろう? まぶたが重くてしかたがない」

おじいさんは、泉のわきに横たわり、すぐに寝入ってしまいました。

どれくらい時間がたったでしょうか。目が覚めたおじいさんは、ぱっと起き上がりました。

ぐっすり眠ったせいか、頭がとてもすっきりし、体中から力がわいてくるような気がしました。

あたりを見まわすと、すでに西の山に日が沈みかけていました。

「これはこれは。早くたきぎをまとめて家に帰らなければ」

おじいさんは、大急ぎで戻って、しょいこにたきぎをのせたのち、ひょいひょいと家に帰っていきました。

おばあさんは、日が沈んでもおじいさんが帰ってこないので、家の前をうろうろしていました。

「おばあさん。ずいぶん遅くなってすまなかった」

おじいさんが、家の前に立っていたおばあさんに向かって声をかけました。すると、おばあさんがびっくりして、あとずさりしました。

「だっ、だれですか」

「おばあさん。私だよ、私」

おじいさんは、おばあさんが自分を見ても分からないので不思議に思いました。

「あれ、本当に不思議だ。声はおじいさんの声なのに‥‥。どこか明るい所でもう一度見てみましょう」

おばあさんは、先に立って家の中に入っていきました。おじいさんが後について入っていくと、おばあさんは、明かりのもとでおじいさんの顔をまじまじと見つめました。

間違いなく、おじいさんの若いときの顔でした。

「どうしたことですか。若いときの顔に戻っている‥‥。いったい何があったのですか」

「若いときの顔だって?」

おじいさんは、おばあさんの言葉が信じられず、自分の顔を手鏡に映してみました。そこには、しわが一本もなく、かみの毛も真っ黒になった顔が映っていました。

おじいさんは、昼間、山の中でのできごとを思い出しました。

「そうか、あれはわかがえる泉だったのか! よし、おばあさんも行って、その水を飲んでみなさい」

若者になったおじいさんは、おばあさんの手をぎゅっと握りしめて言いました。

翌日、若者になったおじいさんは、おばあさんを背負って泉のある場所に行きました。おばあさんは、両手でひとすくい、泉の水をすくって飲みました。

おばあさんも、すぐに寝入ってしまいました。若者になったおじいさんは、おばあさんのかたわらに座って、おばあさんの顔を見つめました。

すると、おばあさんの顔にあったしわはしだいに消えていき、かみの毛もくろぐろと変わり、いつしか若いときの姿に戻っていました。

眠りから目を覚ましたおばあさんは、泉に映った自分の顔を見て、とてもおどろきました。若返ったおじいさんとおばあさんは抱き合って喜びました。

翌日、隣に住んでいる一人暮らしの欲張りなおじいさんが、この夫婦を訪ねてきました。

欲張りなおじいさんは、二人を見て、とても驚きました。心やさしい夫婦は、泉の水を飲んで若返った話をしてあげました。

「それは本当か? それなら、わしにも、その泉の場所を教えてくれ」

欲張りなおじいさんは、夫婦から道を教わると、すぐに泉のある場所に行ってみました。

「よし、さっそく飲んでみよう」

欲張りなおいじさんは、若返りたい一心で、夢中になって何度も何度も泉の水をすくって飲みました。

欲張りなおじいさんもまた、すぐに寝入ってしまいました。

ところが、翌日になっても、欲張りなおじいさんは家に戻ってきませんでした。

「おかしいな、道に迷ったのだろうか」

心やさしい夫婦は心配になって、泉のある場所に行ってみることにしました。

泉の近くまでやってくると、「おぎゃあおぎゃあ」と泣く声が聞こえてきました。夫婦は、泉のほとりに来てのぞきこんでみました。

それは、欲張りなおじいさんの服に包まれた小さな赤ん坊でした。

若返ったおじいさんは、赤ん坊を抱き上げて言いました。

「おやまあ、泉の水をたくさん飲みすぎてしまったようだ」

若返ったおばあさんは、赤ん坊をあやしてあげながら言いました。

「私たちには子供がいないので、この子を連れていって大切に育てましょう。私たちは、この子を心のきれいな子供に育てましょう」

夫婦は、赤ん坊を大切に抱いて家に帰っていきました。そして、赤ん坊と一緒に、毎日、笑いながら楽しく暮らしたそうです。

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