【韓国昔話28】ユネとガチョウ
朝鮮時代に、ユネという有名な学者がいました。
ユネは、若くして科挙に及第し、官職につきましたが、常にそまつな服を着て過ごしていました。ですから、誰も、ユネが王様に仕えている人だとは思いませんでした。
ある年、王様のお使いをするために遠くまで行ってきたユネは、日が暮れて、ある宿に入りました。
宿の主人は、ユネのみすぼらしい身なりを見て、顔をしかめました。
“この身なりを見ると、部屋代をもらうのは難しいな”
こう思った宿の主人は、
「もう部屋は、お客さんで埋まっていますよ。ほかに行ってください」
と冷たくあしらいました。
ユネは宿の主人にたのみました。
「せまくてもよいので、大勢で寝る部屋に一緒に泊めてくれませんか」
「そのような部屋もないと言ったではないですか」
宿の主人はわずらわしそうに答え、後ろを向いて家の中に入ろうとしました。
「それなら、物置小屋でも貸してください。この近くには、ここしか宿がないではありませんか」
ユネは、もう一度たのみました。宿の主人は、しかたなく、ユネに物置小屋を貸してあげました。
その日の晩、ユネが物置小屋の中に座って、月に照らされた庭をながめていると、家の中から一人の子供が出てきて、真珠の玉で遊びはじめました。
ところが、月明かりのもとで遊んでいるうちに、子供は真珠の玉を落としてしまいました。すると、庭にいたガチョウがその玉を飲み込んでしまったのです。
真珠の玉がどこにいったか分からない子供は、「玉がなくなった」と言って、わんわん泣き始めました。
子供の泣き声を聞いて部屋から出てきた宿の主人は、いきなりユネの胸ぐらをつかみました。
「あんたがうちの子供の真珠の玉を盗んだのだろう。早く出せ!」
ユネは、何も答えませんでした。黙っているユネを見た宿の主人は、いよいよユネが真珠どろぼうに違いないと思って、ユネを物置小屋の中の柱にぎゅうぎゅうに縛りつけてしまいました。
「朝になったら、すぐにあんたを郡守様に訴えてやるからな」
すると、ユネが初めて口を開きました。
「ご主人、私は、真珠の玉を盗んでいません。本当に私を疑うのなら、あのガチョウも一緒に物置小屋に閉じ込めてください」
宿の主人は、不思議に思いましたが、ユネの言うとおり、ガチョウも一緒に物置小屋に閉じ込めました。
翌朝、宿の主人は、物置小屋のとびらを開け、ユネを郡守様の所に連れていこうとしました。
「ご主人、少し待ってください。今、ガチョウがしている糞をよく調べてみてください」
とユネが言いました。
宿の主人は、ユネの言葉に、首をかしげながらガチョウの糞を木の枝でつつきまわしてみました。
すると、糞の中から、子供がなくした真珠の玉が出てきたではありませんか。宿の主人は、びっくりしてたずねました。
「えっ、これはどうしたことですか」
「実は、きのうの晩、あのガチョウが真珠の玉を飲み込んだのです」
「それなら、どうしてすぐにそれをおっしゃってくださらなかったのですか」
「ほっほっほっ、私が本当のことを言えば、ご主人は、間違いなくあのガチョウの腹をさいて、真珠の玉を取り出していたはずです。あのガチョウも、生きるために生まれたのです。それなのに、むざむざと殺されるのを黙って見ているわけにはいかないではないですか」
ユネの言葉を聞いて、宿の主人は、自分のせっかちさと愚かさを恥じて、顔を真っ赤にしました。そして、心からユネにあやまったそうです。
終