【韓国昔話20】アビオミダブツ
昔、アーさんとオーさんという人が、同じ日の、同じ時間に死にました。
アーさんとオーさんは、後になったり先になったりしながら、あの世への道を歩いていきました。
ところで、アーさんが歩いていると、先ほどから、オーさんが何かをつぶやいている声が聞こえてきました。
「何をつぶやいているのですか」
アーさんが気になってたずねました。
「極楽に行くために、念仏をとなえているのさ。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」
極楽に行くという言葉を聞いて、アーさんは、自分もそれをとなえたいと思い、
「私にも、その念仏というものを少し教えてくださいませんか」
と心からお願いしました。すると、オーさんは、しかたなく、
「南無阿弥陀仏をとなえなさい」
と教えてあげました。
「ナムアミダブツ、ナムアミダブツ」
アーさんは、一生懸命、念仏をとなえながら、オーさんの後ろについていきました。
ところが、溝を飛び越えた瞬間、アーさんは、今までとなえていた念仏をうっかり忘れてしまいました。
「もしもし、もう一度、教えてください。溝を飛び越えた時にうっかり忘れてしまいました」
アーさんは、オーさんの背中に向かってお願いしました。しかし、先を歩いていたオーさんは、わざと聞こえないふりをしました。
「アビ※オミ※ダブツだったかな?」
しかたなく、アーさんは、思いつくままにとなえながら道を歩きました。
「アビオミダブツ、アビオミダブツ」
アーさんがとなえる念仏の声を聞いて、オーさんは、鼻でせせら笑いました。
間もなく、二人は、あの世へ到着し、閻魔大王の前に立ちました。
閻魔大王は、二人にたずねました。
「おまえたちは、あの世への道を歩いてくる時、どのようにして歩いてきたか」
オーさんが、先に答えました。
「私は、極楽に行くために、南無阿弥陀仏を一生懸命となえながら来ました」
そのあと、アーさんが、大きな罪でも犯したかのように言いました。
「私は、途中で念仏をうっかり忘れてしまい、アビオミダブツと言いながらついてきました」
すると、閻魔大王が雷のような声で言いました。
「念仏を間違ってとなえたことは罪にならない。しかし、一人だけ極楽に行こうと思って、教えてあげなかったことは罪になる」
閻魔大王は、アーさんを極楽に送りました。しかし、オーさんは地獄に送りました。極楽に送るとき、閻魔大王がアーさんに言いました。
「今度は、念仏をまともにとなえてみなさい」
アーさんはとなえました。
「アビオミダブツ、アビオミダブツ」
アーさんは、念仏を忘れて、またそのようにとなえたそうです。
終
※アビ‥‥韓国語で、父親をひくめて言う言葉。父ちゃん。
※オミ‥‥韓国語で、母親をひくめて言う言葉。母ちゃん。