【韓国昔話5】鬼の借金返し
昔、貧しい農夫が住んでいました。
農夫は、山で取った薪を市場に持っていき、それを売ったお金で生活していました。
ある日、薪を売ったお金三両を持って帰ってくるときです。坂道を上がると、突然、目の前に鬼が現れました。
鬼は、いきなり農夫に手を差し出して言いました。
「お金を三両だけ貸してくれ」
農夫は、「鬼に会っても、驚いた姿を見せてはいけない」という言葉を思い出し、落ち着いた声で答えました。
「私は、三両しか持っていないよ」
「その三両を貸してくれ。あした必ず返すから」
「それなら、あした、必ず返してくれ」
農夫は、お金を懐から取り出して、鬼の手に握らせてやりました。
翌日、農夫の家の外で、誰かが呼ぶ声が聞こえるので、扉を開けてみると、そこに鬼が立っていました。
鬼は、農夫の前に手を突き出して言いました。
「これは、おまえに借りたお金三両だ」
鬼は、農夫の手に三両のお金を握らせると、すぐにどこかに行ってしまいました。
ところが、次の日も、また鬼がたずねてきました。
「これは、おまえに借りたお金三両だ」
「きのう返したではないか?」
農夫は、「この鬼は、お金を返したことを忘れているようだな」と思いました。
「いつ返しただって? さあ、受け取れ」
鬼は、またお金を農夫に握らせて行ってしまいました。
次の日も、また鬼がたずねてきました。
「これは、おまえに借りたお金三両だ」
「おとといも返して、きのうも返したではないか?」
農夫は、「この鬼は、頭がどうかしている」と思いました。
「いつ返しただって? さあ、受け取れ」
鬼は、またお金を農夫に握らせて行ってしまいました。
次の日も、また次の日も、鬼はお金を持ってきました。
農夫は、鬼が置いていったお金で、田んぼも買い、畑も買って、家も買いました。それでも鬼は、農夫の家にやってきて、お金を返しつづけました。
鬼は、農夫が死んでも、お金を返しにやってきました。
「これは、おまえに借りたお金三両だ」
しかし、農夫は現れませんでした。鬼は、かっとなって大声で言いました。
「これは、おまえに借りたお金三両だ!」
それでも、農夫は現れませんでした。
すると、腹を立てた鬼は、いきなり意地悪を始めました。農夫の田んぼと畑にたくさんの砂利石をまきちらしたのです。
そのようすを見ていた農夫の息子は、何とかして、鬼の意地悪をやめさせなければならないと思いました。
その日、農夫の息子は、日が暮れたのち、畑に行って、鬼が来るのを待ちました。しばらくして、鬼がたくさんの砂利石を持って畑にやってきました。
農夫の息子は、鬼が来たことに気づかないふりをしながら、ひとりごとをつぶやきました。
「こんなに砂利石がまかれているので、今年は豊作だなあ。もし、肥やしがまかれていたら、穀物が実らず大変なことになっていた」
その言葉を聞いていた鬼は、すっと、どこかに行ってしまいました。
翌朝、農夫の息子が畑に行ってみると、あれほどたくさんあった砂利石はきれいになくなり、代わりに、畑には、多くの肥やしがまかれていました。鬼の仕業でした。
砂利石をまけば豊作になるといい、肥やしをまけば穀物が実らないというので、鬼が意地悪をしようと思って、反対のことをしたのです。
そのようにして、その年、その畑には、多くの穀物が実ったそうです。]
終