【韓国昔話34】言葉を話す石亀
ある村に、意地悪で欲張りな兄と、心やさしく行いの正しい弟が住んでいました。
ある日、弟が山で薪を取っている時でした。どこからか、栗が一つ、ころころと転がってきました。
「おやっ、栗だ! お母さんに持っていってあげよう」
弟は、栗をひろいながらつぶやきました。そのときでした。
「おやっ、栗だ! お母さんに持っていってあげよう」
誰かが、弟の言葉をまねて言いました。
弟は、あたりをきょろきょろと見まわしました。しかし、いくら見まわしても、人っ子一人いませんでした。
すると、また栗が一つ、ころころと転がってきました。弟は、その栗をひろいながら、
「これは、妻にあげよう」
と言いました。すると、また、
「これは、妻にあげよう」と言う声がしました。
弟は、声のするほうに行ってみました。すると、茂みの中から、一匹の石亀がのそのそとはいだしてきました。
「おまえが言ったのか?」
弟が聞くと、
「おまえが言ったのか?」
その石亀は、弟の言葉をそのまま繰り返して言いました。弟は、不思議に思い、この石亀を抱いて市場に行きました。
弟は、市場の真ん中に立って大声で叫びました。
「言葉を話す石亀ですよ! 一度、聞いてみてください!」
弟が声を張り上げると、人々が集まってきました。
「石亀が言葉を話すだって? そんなばかなことがあるか」
「うそではありませんよ、さあ見ていてください」
弟は、石亀をなでながら言いました。
「これは、お母さんに持っていってあげよう」
すると、亀も、弟の言葉をそのまままねて
「これは、お母さんに持っていってあげよう」
と言いました。
「本当に亀が言葉を話している!」
人々は、感心してお金を農夫にあげました。
そのうわさを聞いて、欲張りな兄が弟の所にやってきました。
「その石亀を、数日、おれに貸してくれ」
兄は、石亀を奪い取って言いました。
「どうぞ、持っていってください」
弟は、素直に石亀を貸してあげました。
兄も、弟と同じように、石亀を市場に持っていきました。
「言葉を話す石亀ですよ! 一度聞いてみてください!」
兄が大声を張り上げると、人々がぞろぞろと集まってきました。兄は、石亀に話し掛けました。
「これは、お母さんに持っていってあげよう」
しかし、石亀は兄の言葉をまねず、黙っていました。兄は、うろたえて、もう一度言いました。
「これは、妻にあげよう」
しかし、石亀は、黙ったまま何も言いませんでした。兄が、石亀をこつこつたたいても、石亀はじっとしたまま何も言いませんでした。
「このうそつきめ!」
「おおぼらふきではないか!」
人々は、口々に悪口を言って、その場から去っていきました。腹を立てた兄は、石亀をたたき殺してしまいました。
石亀が死んだという知らせを聞いて、すぐに弟が走ってきました。
「私のせいで、おまえが死んだのだなあ」
弟は、涙を流しながら、石亀を庭に埋めてお墓をつくってあげました。
すると、ある日、その石亀のお墓から青い芽が出てきました。
芽はすくすくと育ち、すぐに大きな木になりました。そして、その木には、人のこぶしほどの実が鈴なりになりました。
弟は、その実を取って皮をむいてみました。すると、なんと、実の中から黄金が出てきました。
弟は、たちまち大金持ちになりました。
そのうわさを聞いた欲張りな兄は、弟がうらやましくてたまらなくなりました。
それで、こっそり石亀のお墓を掘って骨を持ってきて、自分の家の庭に埋めました。すると、その場所からも芽が出てきました。
芽は、すくすくと育ち、すぐに大きな木になりました。そして、その木にも、人のこぶしほどの実が鈴なりになりました。
兄は、すぐに実を取って皮をむいてみました。
すると、なんということでしょう。その実から、どんどんと泥や肥やしが出てくるではありませんか。
兄がびっくりして腰を抜かしていると、ほかの実も割れて、そこからも、どんどんと泥や肥やしが出てきました。
そればかりではありません。木の枝からも、幹からも、どんどんと泥や肥やしが出てきたのです。
それは、あっという間に、兄も、兄の家も、すべて飲み込んでしまったそうです。
終