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シリーズ・「宗教」を読み解く 356
キリスト教霊性とイグナチオの「霊操」⑥
「霊操」、4段階の過程

ナビゲーター:石丸 志信

 イグナチオが著した『霊操』のユニークな構造は、イエス・キリストの生涯を観想する4週間のプログラムになっていることだ。

 それは、「イエス・キリストに倣うことによって、キリストと共に御父の御旨を行うことを中心においた」(『霊操』イグナチオ・デ・ロヨラ著 門脇佳吉訳・解説 岩波文庫、25ページ)からだといえる。

 第1週は、「罪の考察と観想」。
 創造主にして救い主、全能の父なる神に向かい合う時、人類の悲しみの根源、不幸の根源を見極めようとする段階から始める。
 それは自分自身の内奥に巣食う問題を探り当てることでもある。根源的な罪と自らの罪について見つめ、それによって引き起こされた結果を見据えることで、人はようやく解決の糸口にたどり着くことができる。

 2週目は、福音に基づきイエスの誕生と公生涯を観想することに焦点が当たる。
 人間の根本問題を解決するために来られた救い主の生涯を知ることに心が向けられる。

 3週目は、イエスの終わり、受難と十字架上の死を観想する。
 これは、苦しみの極みにおいても貴い愛を示されたイエス・キリストとの完全な一致を目指すものだ。
 キリスト教徒にとって、無私の愛を実践したイエス・キリストは救い主であると同時に、完成のモデルでもあるからだ。

 最終段階では、イエス・キリストの復活と昇天の観想が主題となる。
 そこでは、観想する者が罪と死を越えた復活の喜びを実感するものとなる。
 イエスの復活に立ち会った使徒たちと同じく、許された後に生まれ変わり、立ち上がって自らの使命を受け止める段階に至る。

 このように、4段階の過程を経て祈りを深めていく『霊操』は、罪の悔い改めに始まり、神の救いの御業(みわざ)を実感した者が、神の愛の奉仕者として立ち上がるように組み立てられている。
 また、日々の生活の中で自らの心霊の動向を見極める方法も加えている。

 イグナチオの霊性は、『霊操』に記された観想、祈りに基づいている。
 その祈りによってキリスト者としての使命に目覚めた同志らが、彼が掲げたモットー「神のより大いなる栄光のために」を主体的、かつ実践的に展開した。
 それにより、16世紀に入って世界に福音が一気に伝播(でんぱ)することになった。だから祈りの力を侮ってはいけない。

 イグナチオ自身は世界宣教を旨とするイエズス会総長として最後までローマにとどまったが、彼の深い祈りに支えられながら、東洋の使徒として日本まで福音の種をもたらしたザビエルの行動を通して、イグナチオの霊性がイエズス会の霊性へと高められていったのである。



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