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シリーズ・「宗教」を読み解く 355
キリスト教霊性とイグナチオの「霊操」⑤
「霊操」とは何か?

ナビゲーター:石丸 志信

 『霊操』はどのようにして書かれたのか。

 晩年弟子から質問されたイグナチオは、以下のように答えている。

 「…自分の魂の中で起こった出来事を観察し、自分に役立つと思い、また、他の人たちにも益になると思われることを書き留めたものである」(『ある巡礼者の物語~イグナチオ・デ・ロヨラ自叙伝』イグナチオ・デ・ロヨラ著 門脇佳吉訳・注解 岩波文庫、208ページ)

 イエス・キリストの生涯に倣うイグナチオの人生行路、聖人になろうとする内的格闘の痕跡がそこには刻まれている。
 しかし彼はそれを決して個人的な作品だとは思わず、神からの贈り物として尊び、自らの心霊の在り方を吟味する道具として活用し続けた。

 また同志らがイグナチオと同じ基準で神に向き合い、神霊的な体験を得て、自らの使命を悟るための霊的指導書として用いた。
 イグナチオは、霊操の本質をこう表現している。

 「霊操とは、その名の示す通り、良心を究明すること、黙想すること、観想すること、口禱や念禱をすること、その他、後に述べるような、他の霊的働きなどのあらゆる方法を意味する。霊操と言われる理由は、散歩したり、歩いたり、走ったりすることを体操と言うように、霊操は魂を準備し、調えるあらゆる方法のことである。霊操で目ざすことは、まず、すべての邪な愛着を己から除き去り、除去した後、魂の救いのために自分の生活をどのように調えるかということについて、神の御旨を探し、見出すことである」(『霊操』イグナチオ・デ・ロヨラ著 門脇佳吉訳・解説 岩波文庫、57~58ページ)

 その方法は禅の修行や内観法にも似ているが、それらと大きく違うのは、イグナチオは祈る時、常に目の前に神の存在を感じながら黙想することだった。

 自ら神の御前(みまえ)に進み出て、目の前に創造主である神の姿を仰ぎ見、神の独り子、救い主イエス・キリストの顔(みかお)を見つめながら、父と子と聖霊の交わりの中に身を沈め、三位一体の神の御声(みこえ)に耳を傾け、神から与えられる使命を見出そうという祈りは、キリスト教の伝統に立った祈り方だった。

 また中世の歴史に刻まれた修道制の伝統では、神との神秘的合一を目指して、祈りに専心するものだった。
 そこでは、神の観想と神への賛美に重点が置かれていた。

 宗教改革期に立ったイグナチオは、これを「神と人類への奉仕に重点を移し、『より一層神に奉仕する』力働的で行的な霊性を確立した」(同上、25ページ)と言う。

 それが、イグナチオの導くイエズス会の霊性を培うものとなった。イグナチオが自ら、長き修道制の中で育まれた祈り、黙想の伝統を踏まえながら、時代の要請に合わせて深化させていったものだ。
 この祈りの方法を身に付けた群れが時代に先駆けて世界宣教の大業を成功裏に導くことになる。



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