2024.12.11 17:00
共産主義の新しいカタチ 42
現代社会に忍び寄る“暴力によらざる革命”、「文化マルクス主義」とは一体何なのか?
国際勝共連合の機関紙『思想新聞』連載の「文化マルクス主義の群像〜共産主義の新しいカタチ〜」を毎週水曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部による加筆・修正あり)
農業版文革を露わにしたルイセンコ事件
ラマルク進化説と共産主義②
ルイセンコが科学をイデオロギーの僕に
前回紹介したラマルクの進化論の拙劣(せつれつ)さは、別の形で露(あら)わにされ、20世紀の共産主義を標榜したソ連=スターリン体制下において大失敗を引き起こすことになります。それがいわゆる「ルイセンコ事件」です。
これは、ウクライナ出身の植物育種家トロフィム・ルイセンコによる農業の「文化革命」と言えるもので、ラマルキズムに基づく農業法(ヤロビ農法)を提唱したイワン・ミチューリンの学説をさらにイデオロギー的に強化。「ダーウィニズムの自然淘汰説はブルジョアジーの搾取や帝国主義を正当化する反動イデオロギーであり、ラマルキズムこそがプロレタリアートのための革命的学説だ」というものです。
そして実際、このルイセンコの説によりラマルキズムの理論に基づいて農業政策が行われました。
すなわち、寒さに強い品種とは、極寒の環境に置けば置くほど強くなるはずだとして、雪の上に麻の種子を蒔(ま)かせたのです。しかし当然、種子は水分を吸収してふくれてカビが生え、すべて駄目になって、広大な耕地が1年間も空地のままにおかれたというのです(ソルジェニーツィン『収容所群島』)。
「寒さに強い形質」を後天的に獲得するという考え方からすると、どんな品種でも、寒い環境に置けば寒さに強くなる適応性を獲得することになります。
これに対し、ダーウィンの「自然選択説」の考え方では、寒い環境に適用できない品種は死に絶え、適応できる品種のみ生き残っていく、と考えます。弱者は死に絶え、強者のみが生き残り子孫を残していくという考え方が、「プロレタリア革命」のイデオロギーには「反動的帝国主義」と映ったからです。
こうしたルイセンコによる「革命的提言」によって推し進められたソ連の農業政策は完全に失敗し、壊滅的打撃を被りました。
オデッサ遺伝淘汰学研究所所長だったルイセンコはスターリンに見出され、1939年には全ソ連・アカデミー会員および農業アカデミー総裁など多くの政治的要職を歴任しましたが、農業に壊滅的打撃を与えただけではありません。今や品種改良では常識の「遺伝の法則」への攻撃です。
ルイセンコは1948年の会議で、「メンデル的思考は“反動的かつ退廃的”であり、メンデリズム信奉者は“ソビエト人民の敵”」とする熱狂的演説を行い、彼自身の意見が党中央委員会にも支持されたとして独裁的権力を握ります。
その一方、遺伝学者や、自然選択を支持してラマルキズムを拒否した多くの科学者たちが、権力に屈して「自己批判と党の知恵の正しさ」を告白する文書を書くか、さもなければ粛清や強制収容所に送られたり、消息不明となり、ソ連社会から抹殺されたのです。このもう一つの「プロレタリア文化革命」は、ルイセンコの「政治指導」の下に行われたのです。
こうした「ルイセンコ主義」によって、科学は「適切に調整され実験に基づき説明される理論」ではなく、「望ましいイデオロギー」の枠にはめ込まれる、つまり、科学はソビエト国家に奉仕する、というよりも「共産主義イデオロギーに奉仕するもの」に堕してしまったのです(The Skep-tics Dictionary 参照)。ただ、だからといってダーウィンが正しいというわけではありません。
★「思想新聞」2024年11月15日号より★
ウェブサイト掲載ページはコチラ
【勝共情報】
国際勝共連合 街頭演説「なぜ勝共を叫ぶのか」2024年11月4日 渋谷駅