2024.11.17 22:00
ダーウィニズムを超えて 85
アプリで読む光言社書籍シリーズとして「ダーウィニズムを超えて」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。
統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著
第八章 宇宙の統一原理に向けて
(一)宇宙の生成はフリーランチか
(2)真空エネルギーによる宇宙のインフレーション
真空エネルギーとは何であり、いかにして生じたのであろうか? 物理学者たちは、真空とは、「何もない空っぽの真空でなくて、エネルギーの貯蔵庫」であり、そこにはエネルギーの山や谷があると見ている。すなわちスカラー・ポテンシャル——各点で一つの値しか持たず、方向は持たない——というエネルギーの場があるというのである。エネルギーの山にあるのが偽の真空であり、谷にあるのが真の真空である。あるいは川上の水源にある水、ダムでせき止められた水に相当するのが偽の真空であり、海水面の水に相当するのが真の真空であるともいう。そして偽の真空から真の真空へ移行するとき、エネルギーが放出されてインフレーションが起きるのだという。
旧ソ連からアメリカに移住したタフツ大学の物理学教授のアレックス・ビレンケン(Alex Vilenkin)はスカラー場における、偽の真空から真の真空への落下の様子を次のように図示している。(図8-1参照)
さらにローレンス・クラウスは次のように説明している。
インフレーション・モデルによれば、宇宙のある領域で、一時的に何らかの莫大なエネルギーが支配的になると、その領域——それを「偽の真空」という——は、激烈な指数関数的膨張を始める。やがてその「偽の真空」の内部にある小さな領域が相転移を起こして、インフレーションの状態から抜け出す。するとその小さな領域の内部では、場は、より低いエネルギーの値を持つ「真の真空」に落ち着き、その小領域の膨張は指数関数的ではなくなる(*3)。
真空には“インフラトン場(inflaton field)”という未知のスカラー場があり、そのインフラトン場から宇宙が生じたという説もある。コロンビア大学物理学・数学教授のブライアン・グリーン(Brian Greene)は「まず、インフラトン場が存在しなければならない。そしてそのインフラトン場の値が、斥力的重力による激烈な爆発を引き起こせるだけのエネルギーと負の圧力を生み出せるような値になっていなければならない(*4)」と言う。
ではインフラトン場のエネルギーはどこから生じたのであろうか。それに対して、ブライアン・グリーンは、「インフラトン場は重力からエネルギーを吸い取る(*5)」と言う。すなわちインフラトン場のエネルギーは重力から生まれているというのである。
そして重力は、物質と放射に正のエネルギーだけでなく、負のエネルギーを与えることもできるというのであり(*6)、それゆえフランスの理論物理学者のピエール・ビネトリュイ(Pierre Binétruy)は「宇宙の生成および進化を司っているのは重力である(*7)」と言う。
プリンストン大学の物理学教授のポール・スタインハート(Paul Steinhardt)らによって考案された“クィンテッセンス・モデル”(quintessence model)がある。アレックス・ビレンケンによれば、
クィンテッセンスというアイデアは、真空エネルギーは定数でなく、宇宙の膨張とともに次第に減少するというものです。宇宙は非常に古いので、真空エネルギーはいま非常に小さいというわけです。もつと正確に言うと、クィンテッセンスはスカラー場で、そのエネルギー・ランドスケープはまるでスキーの滑降のために設計されるように見えます。場は初期の宇宙で丘の高いところから始まると仮定されますが、いまごろはもう、場は低いところにすべり落ちています。これは真空のエネルギー密度が低いことを意味します(*8)。(太字は引用者)
これらの理論では、「スカラー・ポテンシャル」と呼ばれる種類のエネルギーが仮定されていた。カナダ・ペリメーター理論物理学研究所所長のニール・トゥロック(Neil Turok)は重力を斥力として与える「スカラー・ポテンシャル」について、次のように説明している。
通常の物質に働くものとは違い、重力を斥力として与えるポテンシャルだ。グースは、宇宙のある小さな一部分が、このエネルギーだけに満たされた空間として始まったと想像した。ちょうど私たちが思い描いた光の球のように、それは極めて高密度なはずだ。その斥力として働く重力は、この空間の膨張を、私たちの光の球よりも一層速く加速し、そのおかげで宇宙は、その最初の段階において指数関数的に膨張するだろう。グースはこのシナリオを、「宇宙のインフレーション」と呼んだ(*9)。(太字は引用者)
そしてグース(アラン・グース、マサチューセッツ工科大学の物理学教授)は、宇宙は「無料のランチ」から生まれたと言った。ニール・トゥロックによれば、
ある固定された密度のスカラー・ポテンシャルのエネルギーで満たされ、インフレーションによって膨張している空間は、宇宙のすべてのエネルギーを小さな種から創り出す。グースはこの効果を、「究極の無料ランチ」と呼んだ。……もしも宇宙の小さな一部分がこのような状態で始まったのだとすると、スカラー・ポテンシャルのエネルギーがそれを指数関数的に膨張させ、ほとんど一瞬のうちに、極めて均一で極めて平坦な、大きな空間が生まれるはずだ(*10)。(太字は引用者)
*3 ローレンス・クラウス、青木薫訳『宇宙が始まる前には何があったのか?』文藝春秋、2013年、186~187頁。
*4 ブライアン・グリーン、青木薫訳『宇宙を織りなすもの・下』三陽社、2009年、67頁。
*5 同上、106頁。
*6 ローレンス・クラウス『宇宙が始まる前には何があったのか?』153頁。
*7 ピエール・ビネトリュイ、安藤正樹監訳、岡田好恵訳『重力波で見える宇宙のはじまり』講談社、2017年、17頁。
*8 アレックス・ビレンケン、村田陽子訳『多世界宇宙の探検』日経BP社、2007年、253頁。
*9 ニール・トゥロック、村田三知世訳『ここまでわかった宇宙の謎』日経BP社、2015年、137頁。
*10 同上、138頁。
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次回は、「ゆらぎによる銀河の形成」をお届けします。