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シリーズ・「宗教」を読み解く 341
イグナチオ・デ・ロヨラの霊性⑨
照明体験と霊操

ナビゲーター:石丸 志信

 イグナチオは、エルサレムに向かう巡礼の旅の途上、マンレサの町で偉大な照明体験(神の照らしと恩寵)をする。一種の悟りである。

 その時のことは自叙伝に淡々と記されている。しかし彼自身が後に振り返ってみると、人生で最も深い体験だったようだ。

 それ以後の30年余りの生涯の中で受けた神の恵みと自らの探究によって得た内容の全てをひとまとめにしても及ばないほどの照らしを、マンレサの一時に受けたのだという。

 イグナチオは、自分が「別の人間」「別の知性をもつ者」になったと思うほど「強烈な照らされた知性を保持するようになった」と自伝に記している。

 聖書の「第二聖典(続編)」に納められた「知恵の書」に次のようにある。

 「知恵は神の力の息吹、全能者の栄光から発する純粋な輝きであるから、汚れたものは何一つその中に入り込まない。知恵は永遠の光の反映、神の働きを映す曇りのない鏡、神の善の姿である。知恵はひとりであってもすべてができ、自らは変わらずにすべてを新たにし、世々にわたって清い魂に移り住み、神の友と預言者とを育成する。神は、知恵と共に住む者だけを愛される。知恵は太陽よりも美しく、すべての星座にまさり、光よりもはるかに輝かしい。光の後には夜が来る。しかし、知恵が悪に打ち負かされることはない」(『新共同訳聖書』知恵の書 7・25~30)

 長くとどまったマンレサで、神秘の極みとしての照明体験を得たイグナチオに、いよいよ聖都エルサレムに出発する時が近づいた。
 しかし祝福と喜びに満ちたかのような体験の直後には、厳しい試練を伴うもの。彼はひどい高熱のために生死をさまようことになる。

 内面においては、「自分は義人だ」という思いが湧き、自らの内に潜む高慢と虚栄心をあらわにされて苦しめられた。

 彼はこの頃から『霊操』の草稿を書き始める。当初は自分自身の鍛錬の取り組みと成果を確認するためであり、心霊の状態を自ら確認するための秤(はかり)として用いるためだった。

 身体の訓練を「体操」というなら、魂の訓練のための手引書となるので、これを「霊操」と名付けた。それは彼自身が全人格を懸けて実践したもので、霊的格闘の跡が刻まれている。

 『霊操』は後に多くの人々の霊的成長を促す道具となる。
 見かけは一冊の小さな書物に過ぎないが、イグナチオに霊的指導を仰ぐ人々に提供され、後に同志となる青年たちにも、彼と同じ「照明体験」をもたらす道具ともなっていく。



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