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シリーズ・「宗教」を読み解く 340
イグナチオ・デ・ロヨラの霊性⑧
イグナチオと神秘体験

ナビゲーター:石丸 志信

 モンセラートの近くマンレサと呼ばれる村に到着したイグナチオは、ほんの数日間のつもりだったが、祈りと苦行に専心するあまり、一年近くを過ごすことになった。
 その間、彼の生涯にとって忘れることのできない神秘体験をすることになる。

 この時代のイグナチオは、正式に修道会に入ってしかるべき訓練を受けていたのではなく、やみくもに自己流の修行に励んでいた。
 ある意味、彼の試行錯誤の修道の道は、それまで千年余り続いてきた修道制の歴史を一歩一歩たどるようなものだった。

 ひとたび祈りと苦行の生活を試みてみると、一見単調に見える生活でも、本人の内面においては、すさまじい格闘が始まった。イグナチオもさまざまな疑念や誘惑に悩まされ、それから逃れるための闘いをせざるを得なかった。

 罪と過ちを悔い、全てを告白したにも関わらず、まだ足りないように感じた。
 許されてはいないのではないかという疑念に悩まされ続ける。時には、穴に身を投げてしまいたいという誘惑に駆られることもあった。
 そうした時、彼は断食して乗り越えたという。

 そのような探究を続けるイグナチオの魂に新たな光が差し始めた。

 まず、「知性が高められ始め、あたかも楽器の三つの鍵盤の形で聖なる三位一体を観た」ので、「抑えることのできないほど、涙と嗚咽(おえつ)が溢れ出て」、「大きな歓喜と慰めを味わう」ことになる。

 次に、「神が世界を創造された有様」を見せられ、「強烈な霊的歓びに包まれ」る。続いて、内的な目で、光のうちに現存するイエス・キリストをしばしば観るようになった。

 そして、一連の神秘体験の頂点は、思いもかけない時に与えられた。近くの教会に向かう途中、カルドネール河畔に腰を下ろした時だった。

 「そこに坐っているうちに、知性の眼が開かれ始めた。何か示現を見たわけではなく、むしろ、多くの事柄を理解し、悟った。多くの事柄というのは、霊的事柄はもちろん、信仰と学問に関する事柄も含んでいた。すべてのことがかれにはまったく新しいものになって顕れるほど、偉大な照明体験であった。そのときかれが悟ったことの詳細を精確に述べることはできないが、知性のうちに偉大な光を受けたことは確かである」(『ある巡礼者の物語~イグナチオ・デ・ロヨラ自叙伝』(イグナチオ・デ・ロヨラ著 門脇佳吉訳・注解 岩波文庫、77ページ)

【参照】
『ある巡礼者の物語~イグナチオ・デ・ロヨラ自叙伝』(イグナチオ・デ・ロヨラ著 門脇佳吉訳・注解 岩波文庫)



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