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シリーズ・「宗教」を読み解く 339
イグナチオ・デ・ロヨラの霊性⑦
ある巡礼者の物語

ナビゲーター:石丸 志信

 『キリスト伝』と『聖人伝』を読みながら、イグナチオが抱いた決意は、「聖人になる」という大胆なものだった。

 聖母子の示現という一つの神秘体験を得た彼の心は、新たな行動へと駆り立てられた。
 術後の足も癒えたので、秘めていた思いを実行に移すべく家を出た。

 家族の者を安心させるため「ナヘラ候に挨拶に行く」と言って、騎士の武具を持ち従者を連れて、「ラバに乗ってロヨラ城を出た」。イグナチオ、31歳の時だった。

 この時からイグナチオは聖都エルサレムを目指す一介の巡礼者となった。
 主イエス・キリストのみ跡を慕い、エルサレムに行って主の受難・死・復活の出来事を思い起こし、その地で主を証しするために生涯をささげる決意で歩みだした。その道すがら、罪を痛悔し、償いのために自らに重い苦行を課した。

 歩み出したばかりの巡礼者は、まだ「霊的に盲目で」、神に気に入られようとして、過度の苦行をやろうとしていただけだったという。

 「決して内的な事柄に眼を向けようとはせず、すべての意向をただ外的に偉大な業を実行することに向けていた」(『ある巡礼者の物語~イグナチオ・デ・ロヨラ自叙伝』イグナチオ・デ・ロヨラ著 門脇佳吉訳・注解 岩波文庫、3940ページ)と、後にその未熟さを反省しながら述懐している。

 旅するイグナチオは、スペイン東部の町モンセラートの近郊で巡礼服を買い求め、町に入ってからは聖母の祭壇に甲冑と剣を奉献し、自らを騎士物語の主人公に模して徹夜で祈った。
 「そこで今まで着ていた騎士の衣を脱ぎ、キリストの武具を身につけることを決意した」(同、45ページ)のだった。

 晩年イグナチオは自らの生涯を弟子たちに語り聞かせ、その内容を『自叙伝』にまとめている。
 それは『ある巡礼者の物語』と題し、一人の巡礼者の姿として客観的に描いている。

 聖人になるとは、一歩一歩、一段一段、格闘しながら前進した結果であり、一つ一つの苦難を乗り越えてこそ、霊的な成長があるのだということを実証して見せているようだ。

【参照】
『ある巡礼者の物語~イグナチオ・デ・ロヨラ自叙伝』(イグナチオ・デ・ロヨラ著 門脇佳吉訳・注解 岩波文庫)



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