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シリーズ・「宗教」を読み解く 338
イグナチオ・デ・ロヨラの霊性⑥
神から与えられた体験

ナビゲーター:石丸 志信

 さて、故郷で足の治療に励んでいるイグナチオ・デ・ロヨラの時点に戻ってみよう。

 ある日、善と悪との狭間(はざま)で葛藤を続けるイグナチオの魂に、根本的な変革をもたらす、初めての神秘体験が与えられた。
 彼は、幼子イエスを抱いた聖母の幻を見たのだ。

 「この示現と共にかなり長い間、非常に強烈な慰めを受けた。それと同時に、過去の生活全体、殊に肉欲に関する事柄に関して強度の嫌悪を覚えた。その結果、魂の中に焼きつけられていた映像のすべてが霊魂から取り去られたように思われた」(『ある巡礼者の物語~イグナチオ・デ・ロヨラ自叙伝』イグナチオ・デ・ロヨラ著 門脇佳吉訳・註解 岩波文庫、30ページ)

 この体験は、伝統的な「聖霊の御降臨を望む祈り」の中に織り込まれた聖霊の働きを想起させる。

 その祈りは、「聖霊、来たり給え。…汚れたるを清め、乾けるをうるおし、傷つけられたるをいやし給え。固きを柔らげ、冷えたるを暖め、曲がれるを直くし給え」(『公教会祈祷文』「聖霊の御降臨を望む祈」)と祈る。

 「母なるもの」の出現は、魂の浄化をもたらし、彼の心の内奥に深い慰めを与えた。
 「慰め主」にして「霊魂の甘美なる友」である聖霊による感動をもたらされた。

 それ故イグナチオは、この体験は「神から与えられたもの」だと受け止めた。そして確かに、内的変化は彼のその後の生活に大きな変化をもたらすことになった。

 生活の大半は祈りと読書、観想に当て、親族との会話も神の事柄を巡るものになった。
 『キリスト伝』と『聖人伝』の2冊の書物を精読し、イエス・キリストや聖人の言葉をノートに丁寧に書き写すことを始めた。

 その頃のもっぱらの慰めは、「天を仰ぎ、星々をじっと観ることであった」(『ある巡礼者の物語~イグナチオ・デ・ロヨラ自叙伝32ページ)という。

 「あなたの天を、あなたの指の業を
 わたしは仰ぎます。
 月も、星も、あなたが配置なさったもの。
 そのあなたが御心に留めてくださるとは
 人間は何ものなのでしょう。
 人の子は何ものなのでしょう。
 あなたが顧みてくださるとは」(新共同訳『聖書』、詩編845 

 イエス・キリストにとらえられた一人の巡礼者は、聖霊の促すままに、われ知らず修道霊性の歴史をたどりながら相続していくことになる。

 それは、自ら進んでみ言(ことば)を読み、深く観想し、潔い殉教精神でもって苦行に励み、隠修士のごとき孤独な修養の道に乗り出していくことになるからだ。



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