2024.09.18 17:00
共産主義の新しいカタチ 30
現代社会に忍び寄る“暴力によらざる革命”、「文化マルクス主義」とは一体何なのか?
国際勝共連合の機関紙『思想新聞』連載の「文化マルクス主義の群像〜共産主義の新しいカタチ〜」を毎週水曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部による加筆・修正あり)
「道徳=強制」「文化=野蛮」が批判理論の本質
テオドール・アドルノ①
フランクフルト学派の「代表作」たる『啓蒙の弁証法』を、前回のホルクハイマーと共同執筆したのがアドルノです。アドルノは富裕なユダヤ商人の家に生まれましたが、父の姓はヴィーゼングルントで、歌手であったイタリア系の母の旧姓であるアドルノを名乗ったことが、両親との距離と音楽への志向(叔母がピアニスト、祖母も歌手の音楽一家)を表します。
長じてフランクフルト大学で哲学を志し、地元で聴いたアルバン・ベルクの歌劇『ヴォツェック』に感激し、「新ウィーン楽派」と呼ばれたベルク・シェーンベルク・ウェーベルンのうちベルクに師事。
自ら作曲を行ったアドルノにとり、1オクターブを構成する12音)が「平等」で秩序を否定する12音技法は「革命の音楽」であり、家父長制的社会秩序を想起させる厳格な調性音楽は否定されるべきと考えました。
そればかりか、アドルノは音楽史にルカーチ理論に基づき「階級意識」を導入し、「ベートーヴェンの音楽は、市民階級の弁護を先取りするものであり、それと同様に市民階級の革命的な解放過程の一部でもある。…彼の交響楽には、フランス革命のこだまが鳴り響いている」(『美の理論』)と捉えました。
道徳は「押しつけ」「刷り込み」の成果
さらにアドルノは、カントにおける「理法」による秩序構成に反対し、これを「強制」や「押しつけ」と考えました。そして「善悪観念」や「良心」と呼べるものは、こうした既存の(キリスト教など宗教的道徳観念に基づく)社会的価値観の「強制」ないし「押しつけ」による「刷り込みの成果」と見なしたのです。
アドルノの立場は、「固定観念」「既成概念」を破壊した上でこそ、「新しい道徳規範・価値観」を築けるとするもので、ポストモダン思想に共通して見られるものです。
2024年1月25日、ナチス・ドイツによるユダヤ人の「ホロコースト(大虐殺)」の象徴として知られる現ポーランドのアウシュヴィッツ強制収容所が旧ソ連軍により解放されてから70年を迎えたことが各メディアで大きく報じられました。このアウシュヴィッツ収容所についての最も有名な言葉は、アドルノの「アウシュヴィッツの後で詩作することは野蛮である」でしょう。
これは「文化批判と社会」の副題を持つ評論集『プリズメン』に記されています。しかし恐るべき災厄は、アウシュヴィッツだけに限りません。地下鉄サリン事件や阪神大震災、「9・11テロ」、3・11東日本大震災など、生死を分けた災害・事件は、犠牲者・遺族も生き残った人々にも等しく傷を負わせるものといえます。
「アウシュヴィッツ」と「文化=野蛮」論
問題は「アウシュヴィッツ」がある種「絶対性」をもち始めること。「いかなる反論をも許さない」とのアドルノの『否定弁証法』での記述は、固定観念を排する「批判理論の原則」を破り、自己矛盾に陥っているのです。
さらにアドルノの言葉に従えば、一切の文化は「野蛮」というのです。この「野蛮」は「アウシュヴィッツ体験」から来ますが、「(戦争やテロで)人を殺戮しても動じない非情なる冷酷さ」と言い換えられます。文化を生み出す土壌となった宗教的背景はもちろん「野蛮」であると考えました。
しかし、宗教や倫理道徳思想は、人間の「野蛮性」を十分に認識しつつ、その生き方を回避し「善く生きる」方策を説いてきました。およそ高等宗教と呼ばれる宗教は総じて「利他的生き方」を説きますが、批判理論では「死ねば一切は終わり」という唯物論に収斂(しゅうれん)させてしまうのです。
アドルノはナチスによりドイツを追われ、ホルクハイマーと米国で合流し、戦後ドイツに帰還しフランクフルト大学に復職します。戦後のアドルノ思想は、反体制運動を知的理論的側面から支えるものでしたが、皮肉にも学生らの反体制運動と決裂。それは彼自身の批判的理論の持つ矛盾が原因と言え、まさに「宿業」というほかありません。(続く)
★「思想新聞」2024年9月1日号より★
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