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共産主義の新しいカタチ 28

 現代社会に忍び寄る“暴力によらざる革命”、「文化マルクス主義」とは一体何なのか?
 国際勝共連合の機関紙『思想新聞』連載の「文化マルクス主義の群像〜共産主義の新しいカタチ〜」を毎週水曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部による加筆・修正あり)

「マルクスとフロイトの融合」企てる学際的唯物論
マックス・ホルクハイマー①

▲マックス・ホルクハイマー(1895〜1973)

 田中英道・東北大名誉教授は、GHQ(連合国軍総司令部)による戦後日本の占領政策で最も大きな影を落としたのが、「米戦略諜報局」(OSS)で、その中核となったものこそ、ドイツから亡命した「フランクフルト学派」の思想だと指摘します(『戦後日本を狂わせたOSS「日本計画」:二段階革命理論と憲法』展転社)。
 そのフランクフルト学派のリーダー的人物こそ、後に米国で亡命生活を送ったマックス・ホルクハイマーでした。

 フランクフルトは、ユダヤ人に寛容で自由な気風を保ったドイツ屈指の商業都市。文豪ゲーテの生誕地で、フランクフルト大学は、正式名を「ゲーテ大学」と文豪の名を冠し1914年、民間資金で設立されました。この大学に附置された「社会研究所」こそ、フランクフルト学派の舞台でした。

 織物製造業を営むユダヤ人実業家の家系に生まれたホルクハイマーは、同じユダヤ系の親友フリードリヒ・ポロックと共に、第1次大戦従軍後、設立間もないフランクフルト大学に入学。ホルクハイマーは助手時代、ポロックと「自由なマルクス主義の研究機関」の設立を提案し、それを財政的に支えたのが、世界的実業家の息子フェリックス・ヴァイルでした。

 発端となったのは、フランクフルトでの「第1回マルクス主義研究週間」の開催で、ルカーチ、コルシュ、リヒャルト・ゾルゲ、K・ウィットフォーゲル、福本和夫らが参加。

 ゾルゲはもちろんソ連のスパイ、福本は構造改革路線を最初に日本に持ち込んだ理論家(『思想新聞』連載「シン・日本共産党実録」でも「福本イズム」の提唱者として登場します)で、後にマッカーサー憲法案に大きな影響を与えたといわれる「憲法研究会」の鈴木安蔵の師にあたる人物なのです。

学際的唯物論からマルクスとフロイトの融合
 ホルクハイマーは卓越したプロデュース能力で「社会研究所」を1923年に発足させます。既存のマルクス主義解釈には飽きたらず、マルクス主義の新しい可能性を模索し、「学際的唯物論」構想に至ります。

 さらに彼は1930年に所長になり、研究所として「青写真」を具体的に展開し、マルクス主義イデオロギーによりあらゆる学問領域を統合する壮大な構想で、極めて野心的な企てでした。その過程で出てきたのが、「マルクスとフロイトの融合」ということになります。

 ホルクハイマーは新カント学派のコルネリウスが指導教授でしたが、むしろカントの「意志と表象」概念を敷衍(ふえん)展開したショーペンハウアーの思想こそ、フロイトとの共通基盤だったと言えるのです。

『啓蒙の弁証法』

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 ホルクハイマーの企図したマルクスとフロイトの融合は、具体的には盟友アドルノとの共著により米国時代に出版された『啓蒙の弁証法』という主著に結実します。

 そもそもフロイトの精神分析学のフランクフルト学派への受容は、フロイトの弟子で、ナチズムの権威主義についての著作で知られるエーリッヒ・フロムがフランクフルト学派の紀要に寄稿してからだと言われています。

 フロイトとホルクハイマーとを介する「共通項」としてのショーペンハウアー哲学の中心概念である「生への盲目的意志」をホルクハイマーは「盲目的欲望」と解釈しフロイトの「リビドー」概念を先取りするものとして評価し、このショーペンハウアー仕込みの「この世は最悪」と見なす「ペシミズム」によって、フランクフルト学派の「痕跡」と言える「批判(的)理論」を構築していきます。(続く)

「思想新聞」2024年8月15日号より

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