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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

太平洋進出の本気度を見る、中国軍が日本の領空を侵犯

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、8月26日から91日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 中国軍機が長崎県男女群島(だんじょぐんとう)の領空を初めて侵犯(826日)。イランの最高指導者ハメネイ師、米欧との融和を認める(27日)。米中高官(サリバン、王毅両氏)、ハイレベル対話継続で一致(28日)。ウクライナのF1626日に墜落、パイロット死亡、軍が確認(29日)。米補佐官が中国外相に日本領空侵犯の問題を提起、米紙報道(29日)。中国海軍のシュパン級測量艦が口永良部島(くちのえらぶじま)沖領海を侵犯(31日)。台湾第2野党・台湾民衆党トップを汚職容疑で逮捕(31日)。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領に収賄疑惑、検察が親族巡る家宅捜索令状に「収賄の容疑者」と明記と報道(91日)、などです。

 中国が基本戦略を前提に、日本が「試された」一週間でした。そして日本は「敗北」したのです。

 防衛省は826日、中国軍の「Y9」情報収集機が同日午前1129分ごろに長崎県男女群島の領空を侵犯したと発表しました。

 男女群島の東側から侵入し、領空侵犯は2分ほど続いたというのです。その時、航空自衛隊の「F15」戦闘機と「F2」戦闘機が緊急発進し、警告を発しています。

 さらに防衛省によれば、中国軍機による領空侵犯の確認は「初めて」のことであり、事態を「極めて重大に受け止めている」として、飛行の意図を分析すると共に、引き続き警戒監視に万全を期す構えであることを表明しました。

 当面の対応として、岡野正敬外務次官が施泳・在日中国臨時代理大使を外務省に呼び、極めて厳重に抗議し、再発防止を強く求めたといいますが、なぜ上川陽子外相が抗議しなかったのか、非常に不満です。

 問題は、翌27日には、超党派の日中友好議員連盟の二階俊博自民党元幹事長、森山裕総務会長らが訪中する予定になっていたことです。
 当然、訪中は抗議のために中止か、延期すべきでした。しかし実行されたのです。すでに「敗北」です。

 28日には中国共産党序列3位の趙楽際氏と人民大会堂で会談し、趙楽際氏は「侵犯の意図はない」と説明したといいます。

 中国軍機が領空を侵犯したのは2分間でしたが、実際は、この空域で2時間以上旋回を続け、自衛隊機から警告を受けていました。誤って領空に侵入したとはとても考えにくいのです。

 中国は、岸田首相の退陣表明により「政治空白」が生じている中での日本の防空体制を見極めつつ、台湾奪還の環境づくりとしての海洋進出の道を開こうとしたのでしょう。

 さらに防衛省は31日、中国海軍のシュパン級測量艦1隻が同日午前6時ごろ、鹿児島県・口永良部島の南西から領海に侵入し、2時間近く航行したと発表しました。

 防衛省統合幕僚監部によれば、これまで中国軍艦艇による領海侵入は今回も含めて計13回、このうち口永良部沖が11回になるといいます。

 中国の狙いについて、同海域の警戒監視を担当する海上自衛隊第1航空群(鹿児島県鹿屋市)の群司令を務めた中村敏弘元海将補は「中国大陸から太平洋に進出するに当たり、この海域を最短ルートの一つとして重視している可能性がある」と指摘しています。

 潜水艦が敵から発見されずに海峡を通過するためには、海底地形や水温、塩分濃度、潮流などのデータを事前に集めることが不可欠なのです。
 今回は約2時間で海峡を通過して太平洋に向かっており、そのことが目的であったことは間違いないでしょう。

 中国は、日中友好議員連盟の訪中の時期を狙ったのです。日本の対応は全てにおいて情けないものです。
 外交の敗北です。



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