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ダーウィニズムを超えて 73

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「ダーウィニズムを超えて」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
 生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
 そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。

統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著

(光言社・刊『ダーウィニズムを超えて科学の統一をめざして』〈2018520日初版発行〉より)

第七章 混迷する神なき現代物理学

(四)人間原理の台頭

3)強い人間原理と弱い人間原理
 人間原理にはいろいろな種類があるが、大きくは「強い人間原理」と「弱い人間原理」に分けられる。強い人間原理は、宇宙は必然的にわれわれが存在できるようにできているという立場であり、目的論に通じるものである。

 ジョン・バロウとフランク・ティプラーは強い人間原理について次のように説明している。宇宙はその発展のどこかの段階で観察者を必ず生み出さねばならない。物理法則と宇宙の進化は、まだ特定されていない何らかの方法で、生物と心を生み出すように運命づけられているのであり、生物と観測者のいない宇宙は存在しない。

 理論物理学者のフリーマン・ダイソン(Freeman Dyson)は「宇宙は、ある意味、私たちがやってくるのを知っていたのではないかと思える(*22)」と言う。そして生物学者のサイモン・モリス(Simon C. Morris)は「宇宙の始まりそのもののなかに、必然的に知性を生み出す種が播かれているのだ(*23)」と言っている。そしてノーベル賞受賞生物学者であるクリスチャン・ド・デューブ(Christian de Duve)は、「宇宙は生命をはらんでいる」と言い、生物を「宇宙の必然」と呼んだ(*24)。

 このような強い人間原理に対して、唯物論的な科学者は冷笑した。ところが「弱い人間原理」の登場とともに、無神論的な物理学者も関心を示し始めたのである。弱い人間原理とは、受動的な選択機構としての人間原理である。すなわち、弱い人間原理によれば、無数にある多宇宙の中の一つが、たまたまわれわれの住む宇宙になったというのであり、膨大な数のひも理論のうちの一つが、たまたま選ばれて、われわれの宇宙法則となっているというのである。

 哲学者のジョン・レスリー(John Leslie)は弱い人間原理と強い人間原理について、次のようなたとえを紹介している。銃殺刑に処せられた囚人が死なないで生きているという場合、その理由は二つである。射撃手たちがみな失敗したか、射撃手たちがみな、わざとはずしたかである。前者に相当するのが弱い人間原理であり、後者に相当するのが強い人間原理である。

4)弱い人間原理に傾く物理学者たち
 今日、著名な物理学者が、どんどん人間原理の隊列に加わりつつある。電磁力と弱い力を統一して、アブダス・サラム(Abdus Salam)、シェルダン・グラショウ(Sheldon Glashow)とともにノーベル賞を受賞したスティーヴン・ワインバーグ(Steven Weinberg)もその一人である。サスキンドもその隊列に加わった。ホーキング(Stephen Hawking)も人間原理の立場から次のように言う。

 このような加速器や宇宙マイクロ波背景放射などの観測により、私たちは自分がブレーン上に住んでいるかどうかを決められるかもしれません。もし本当にブレーン上に住んでいるなら、それはおそらく人間原理が、M理論が存在を許す多様な宇宙のモデルを展示している巨大な動物園から、ブレーンモデルを選び出したからでしょう(*25)。

 超ひも理論にブレーンを導入したジョー・ポルチンスキーも「満たされたランドスケープ」という考え方に代わるものはないと言った。「満たされたランドスケープ」とは、サスキンドの言葉であるが、自然は何らかのやり方でいっさいの可能性を利用し尽くして、数学的な可能性を物理的実在に変えるというのである。マルチバースという用語を提案したマーティン・リースはランドスケープと人間原理の熱狂的な支持者である。偽の真空と真の真空のスカラー場モデルを考察し、インフレーション理論を発展させたアンドレイ・リンデ、そして永久インフレーションの提唱者のアレックス・ビレンキンも人間原理的ランドスケープ陣営に強くくみしている。

 もちろん、人間原理に対する物理学者もいる。「絶対、絶対、絶対、絶対、あきらめるな」と叫んだディヴィッド・クロスがその代表者であり、彼は人間原理はウイルスのようだと批判した。しかし今日、物理学者は弱い人間原理へと傾きつつあるようである。


*22 ポール・ディヴィス、吉田三知世訳『幸運な宇宙』日経BP社、2008年、387頁。
*23 同上、387頁。
*24 同上、387頁。
*25 スティーヴン・ホーキング、佐藤勝彦訳『ホーキング、未来を語る』ソフトバンク・クリエイティブ社、2006年、265266頁。

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 次回は、「ダーウィニズムに同調する現代物理学」をお届けします。


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