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ダーウィニズムを超えて 72

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「ダーウィニズムを超えて」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
 生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
 そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。

統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著

(光言社・刊『ダーウィニズムを超えて科学の統一をめざして』〈2018520日初版発行〉より)

第七章 混迷する神なき現代物理学

(四)人間原理の台頭

 物理学は今、宇宙は無数にあるという宇宙論におけるマルチバース、10500乗の真空をもつという、ひも理論のランドスケープに大きく傾きつつある。そのような状況のもとで人間原理が注目を浴びている。宇宙は生命や意識が生じ、われわれ人間が存在できるように微調整されているというのが人間原理である。

(1)宇宙が微調整されているように見える例
 宇宙の設計者を認めるか否かにかかわらず、宇宙は精密に微調整されており、特別に設計されているように見える。その実例として次のようなものが挙げられる。

①強い力
 原子核の内部で作用する強い力が数パーセントでも大きかったら、宇宙の初期に陽子同士がくっついてしまい、水素原子はほとんど存在しなかったであろう。そうなると、生命に必要な水も、宇宙には存在しえない。逆に、強い力がわずか数パーセントでも小さかったら、宇宙には水素原子しかなかったことになる。

②弱い力
 弱い相互作用が今よりずっと強ければ、ニュートリノは星の核から逃れ去ることはできない。また弱い相互作用が今よりずっと弱かったとしたら、ニュートリノは星の外側の層を吹き飛ばしたりせずに、自由に飛んでゆく。いずれにせよ、超新星爆発は起こらなくなり、生命が存在するのに必要な鉄より重い元素を生成することはできなかった。

③重力
 重力が少し強かったら星は短い時間で燃えつきてしまう。重力がほんの少し弱かったら、超新星が生じることはなく、生物が生まれる可能性は低くなった。

2)人間原理の誕生
 1961年、アメリカの宇宙論学者ロバート・ディッケ(Robert Dicke)が人間原理の考えを宇宙論に導入した。1974年、イギリスの宇宙論研究者であり理論物理学者であるブランドン・カーター(Brandon Carter)が、ディッケの説を「弱い人間原理」と呼び、自説を「強い人間原理」と呼んだ。カーターによれば、物理法則がわれわれが知っているものとほんの少し違っていたなら、生物が存在することなど不可能である。すなわち、物理法則は生物が存在するのにちょうどよいように調整されているというのである。人間原理は、マーティン・リース(Martin Rees)、バーナード・カー(Bernard Carr)、ポール・ディヴィス(Paul Davies)、ジョン・バロウ(John Barrow)、フランク・ティプラー(Frank Tipler)へと引き継がれていった。

 人間原理は、宇宙の法則が生物が存在しうるように見事に微調整されているということから、デザイナーとしての神を受け入れるとして、物理学界から激しい反発を引き起こした。しかし、やがてマルチバース、ランドスケープの中から偶然に、生物が存在する宇宙がありうるという観点から、無神論の科学者たちが関心をもち始めた。

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 次回は、「人間原理の台頭②」をお届けします。


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