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ダーウィニズムを超えて 71

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「ダーウィニズムを超えて」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
 生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
 そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。

統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著

(光言社・刊『ダーウィニズムを超えて科学の統一をめざして』〈2018520日初版発行〉より)

第七章 混迷する神なき現代物理学

(三)超ひも理論は統一理論になりえるか

(5)超ひも理論の行き詰まり
 万物理論を目指した超ひも理論であったが、今日、大きな困難に直面しており、まさに混迷状態にある。超ひも理論の第一線の研究者であり、解説者でもあるブライアン・グリーン(Brian Greene)も次のように語っている。

 手短に言えば、ひも理論の方程式は複雑すぎて、誰もその正確な形を知らない。物理学者は何とか方程式の近似的な形を述べてきたにすぎない。ひも理論の種類によって著しくちがうのは、こうした近似的な方程式である。また、五つのひも理論のいずれにおいても、おびただしい数の解、あり余るほどの宇宙を生み出してしまうのは、こうした近似的な方程式なのだ(*12)。(太字は引用者)

 ブライアン・グリーンは、このような困難さがあるにもかかわらず、それでもひも理論は研究に値するものであるという。しかし、ひも理論の創始者の一人でもあるレオナルド・サスキンドは、『宇宙のランドスケープ』の中で、ひも理論の現状について、次のように述べている。

 今日、私たちは「すぐそこにある」成功がまぼろしだったことを知っている。……唯一の理論であると思われたものに対して、数学的に一貫性のある新しい形式が次々と登場したことである。1990年代に、可能性の数は指数関数的に増大した。ひも理論家たちは、驚くべきランドスケープが登場し、そこに非常にたくさんの谷があって、そのどこかにほとんどあらゆるものを発見できることを恐怖をもって見つめた。……唯一性とエレガンスの普通の基準からすると、ひも理論は美女から野獣へと転落している(*13)。(太字は引用者)

 ノーベル賞物理学受賞者たちも、ひも理論に対して疑問を提示している。

[ファインマン、Richard Feynman]私はやはり、これはナンセンスだと強く思うからです。
 ……——どこが気に入らないのですか。
 何も計算しないところが気に入りません。その考え方を確かめないのが気に入りません。実験と一致しないこと、何についても説明をこじつけるところが気に入りません——「それはそうだが、正しいかもしれんよ」と言うためのつじつま合わせです(*14)。

[グラショウ、Sheldon Glashow]ストリング思想は、物理学科よりも、数学科とか、あるいはさらに神学科の方にふさわしいのではないか(*15)。

[トホーフト、Gerard't Hooft]私はストリング理論を「理論」と呼ぼうという気にはならず、むしろ「モデル」、あるいはそれでさえなく、ただの勘と言いたい(*16)。

 また第二次超ひも理論革命を可能にしたカラビ・ヤウ空間についても、膨大な数の可能性があるという深刻な問題が生じてきた。物理学者であり数学者であるピーター・ウォイト(Peter Woit)は次のように指摘している。

 [1984年には]知られているカラビ=ヤウ多様体がほとんどなかった当時、その一つが功を奏して、それが標準モデルの構造をもたらすと期待するのも無理はなかった。20年以上の研究から、これは欲張りな考えであることが分かった。カラビ=ヤウ空間は膨大な、もしかすると無限の種類がありうるし、この主題にブレーンが持ち込まれて、新たにとてつもない数の可能性が開けた(*17)。

 サスキンドによれば、6次元をコンパクト化する(巻き上げて隠す)のに利用できる可能性があるというカラビ・ヤウ空間の数は少なくとも百万個あるという。

 ジョー・ポルチンスキーとラファエル・ブッソ(Raphael Bousso)は、一つのカラビ・ヤウ空間の中にあるドーナツ穴をフラックスで満たすにはどれだけの方法があるか考えた。フラックスは磁場の力線のようなもので、さまざまなドーナツ穴を通化するフラックスは整数倍に量子化されているという。穴を通るフラックスがゼロから9までの任意の整数の場合、10通りの可能性がある。そしてフラックスが通る500個のドーナツ穴が存在するとすれば、その可能性は10500乗個になるという(*18)。結局、宇宙のランドスケープには10500乗個の谷が存在し、一つひとつの谷は、それぞれ真空のエネルギーをもっているが、私たちの宇宙はその中の穏やかな一つの谷であるという。

 超ひも理論の第一人者と目されているウィッテンも、現在のひも理論の状況を考えて次のように語った。「われわれにはひも理論が何なのかをどうにか理解できそうというところが関の山で、理解できてもできなくても、それを使って自然を理解できるのか全く分からない。それは、最終的な答えがどれだけ複雑になるか、どんな手掛かりを幸運にも実験から得られるかなど、われわれにはいかんともしがたい要因によって決まるのだ(*19)」。

 以上、見てきたように、超ひも理論は、ますます混迷の度を深めている。しかし、それでも唯一の統一理論である万物理論が可能であると希望を抱いている理論家たちがいる。ウィッテンとデービッド・グロス(David Gross)がその代表である。

 2004年のノーベル賞受賞者のグロスは2003年、京都で行われた学会での講演でチャーチルの演説を引用しながら「絶対、絶対、絶対、絶対あきらめるな」と叫んだ。そしてグロスは、超ひも理論では宇宙の根本的な特徴を説明できないと結論を出すのはまだ早いと、次のように言う。

 われわれは、ストリング理論がどういうものか、根本的なところはまだ知らない。理論について、基本的な、背景独立の表し方は得られていない。矛盾しない準安定[他のもっと安定した状態があっても、すぐにそちらに移ってしまわず、ある程度の時間、持続する安定状態]の真空が10の1000乗もあるかもしれないが、……もしかすると、一つに決まる宇宙論があるかもしれない(*20)。

 しかしながら、唯一の統一理論を目指す超ひも理論の願いは、このままでは見果てぬ夢に終わりそうである。そして、唯一のひも理論は希望的観測にすぎないと考える、ひも理論家が増えている。グロスの同僚で、超ひも理論に大きな貢献をしたポルチンスキーも、グロスとウィッテンの姿勢について、次のように言っている。

 確かにストリング理論では、「一真空教」信仰があり、その預言者は、ニュージャージー(たぶん、私の研究室の下の階)にいて、要するに、何かの魔法の原理で単独の真空、つまりわれわれの真空を選ぶのだろう。これが本当であってほしいが、科学者は、そうならうれしいからという理由だけで何かを信じるようにはできていないと思われている(*21)。(太字は引用者)


*12 ブライアン・グリーン、林一・林大訳『エレガントな宇宙』草思社、2001年、381頁。
*13 レオナルド・サスキンド、林田陽子訳『宇宙のランドスケープ』日経BP社、2006年、163164頁。
*14 ピーター・ウォイト、松浦俊輔訳『ストリング理論は科学か』青土社、2007年、228頁。
*15 同上、229頁。
*16 同上、230頁。
*17 同上、257頁。
*18 レオナルド・サスキンド『宇宙のランドスケープ』379381頁。
*19 ローレンス・クラウス、斉藤隆央訳『超ひも理論を疑う』早川書房、2008年、294頁。
*20 ピーター・ウォイト『ストリング理論は科学か』312頁。
*21 同上、313

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 次回は、「人間原理の台頭①」をお届けします。


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