2024.08.07 17:00
共産主義の新しいカタチ 24
現代社会に忍び寄る“暴力によらざる革命”、「文化マルクス主義」とは一体何なのか?
国際勝共連合の機関紙『思想新聞』連載の「文化マルクス主義の群像〜共産主義の新しいカタチ〜」を毎週水曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部による加筆・修正あり)
「文化の変革」こだわるマルクス主義戦略家
アントニオ・グラムシ①
文化共産主義の「中核」とも言うべき「ユーロ・コミュニズム」において、前回のジョルジュ・ルカーチと双璧と見なされているのが、イタリア共産党書記長を務めたアントニオ・グラムシ(1891~1937)です。
マルクス主義の系譜をまとめたマクレラン編著『アフターマルクス』では、「グラムシは過去50年間のうちで最も独創的なマルクス主義の思想家であった。彼の貢献は、十月革命以後10年間のマルクス主義的政治論の全領域にわたっている」と紹介し、パトリック・ブキャナン著『病むアメリカ 滅びゆく西洋』では「少し遅れて20世紀最大のマルクス主義戦略家の称号を授かったイタリア人共産主義者」とグラムシの「名参謀」ぶりを表現しています。
では、グラムシ思想の何がマルクス主義にとって「画期的」と言えるのでしょうか。
グラムシの思想は端的に言えば、「資料」に挙げたブキャナン氏が言うように、レーニンやスターリンはおろか、ルカーチよりもっとさらに「文化」の持つ重要性に気付き、「文化(とりわけ大衆文化)を基軸とした戦略・戦術」を考案したと言えます。
サルデーニャという辺境の出自を、疎外されたいわば被差別的な「サバルタン」(従属集団)と見なしたグラムシの理論も、つまるところ「怨恨」(ルサンチマン)の情念によって、「文化的ヘゲモニー」を、支配者階級から奪還しようとするものであり、マルクス主義が共通に胚胎(はいたい)する「情念」と言えるのです。
苦学してトリノ大学に入り、盟友パルミロ・トリアッティと共に社会党の機関紙を発行に携わり、トリノを本拠地とするフィアット自動車工場の労働運動を指導・組織し、「工場占拠事件」も起こしたりします。工場の労働者評議会を動かした点で、評議会共産主義者と位置づけられたりします。しかし単なる運動家・革命家ではない点にグラムシの手強さがあります。
サバルタンとヘゲモニー論から従属理論
日本共産党が「マルクス(=レーニン)主義」のことを「科学的社会主義」と言い換えているように、獄中にあったグラムシも(改良された)マルクス主義、即ち「革命のための実践イデオロギー(理念)」を、「実践の哲学」と呼びました。
「実践の哲学は、絶えず非組織的に広がり、歴史的に主導性を持たない従属的社会集団[サバルタン]の考え方である」(『獄中ノート』16)と定義づけました。
主導性を持たない従属集団がなぜ知識人を生み、「支配者」からヘゲモニーを奪還することが可能なのか―。これはグラムシの取り組んだ難題でしたが、彼自身はこれをやはり矛盾・闘争を止揚する「弁証法的」に解決できると説明しようとしました。
そして義姉タチアナへ書いた手紙には「抹香臭(まっこうくさ)い本」として、「宗教の迷信性」をしきりに訴えています。まさに説教じみた宗教的な本、説話文学の類いと言えるでしょうが、これらは皆、「迷信」の強迫観念に支配されている、といった内容にほかなりません。だからこそ、そうした「迷信」を打破するべく、「新しい倫理・道徳」を打ち立てよ、とグラムシは主張していることになります。
これがまさしく、「対抗文化」のイデオロギー、行動原理にほかならないのです。そして「文化的ヘゲモニー」をもって長らく支配してきた「文化帝国主義」を指弾し、讒訴(ざんそ)することによって、「ヘゲモニー」を従属集団(サバルタン)の下に奪還すること、それが「文化革命」ということになるわけです。
そしてこの「対抗文化」「文化革命」を推進する行動規範(エートス)こそ、「新しい倫理・道徳」ということになります。
共産主義に通底する怨恨の情念
なお付論するなら、日本では「勝ち組と負け組」という二極化、または「格差社会」という表現がしばしば見られます。日本もそうですから、世界を見渡せば、まさに国家的な「勝ち組・負け組」の格差というものは甚だしいように見えます。
こうした格差のみを強調する(もちろん格差が全くない、というわけではありません)のは、社会学者や経済学者です。このうち、「カルチュラル・スタディーズ」(略してカルスタ)派は、まさにマルクス、そしてグラムシの思想的影響の下に「従属理論」を展開するのです。
そして、それが極めて政治的な「ポストコロニアリズム」や反グローバリズム運動に容易に結びついていきます。「反帝国主義」イデオロギー、つまり現代の「勝ち組超大国」アメリカに対する「否」という形となって現れるのです。
もちろん、構造主義などの「ポストモダン」と言われる思想が、全体で「米国=悪」と名指ししているわけではありません。むしろそれは、「西欧」文化・文明全体が否定されるべきものと見ています。米国の文化・文明はその最も「最終形態」と見なしていると言えるでしょう。
確かに、政治的・軍事的・経済的のみならず、文化の多くの領域においても、ハリウッド映画やマクドナルドなど、アメリカの発信したものが世界中を席巻している、と見なすことは難しくないかもしれません。しかしそれを一方的な「文化侵略、文化帝国主義だ」と断じれば、後は事足りるのでしょうか。(続く)
★「思想新聞」2024年7月1日号より★
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