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共産主義の新しいカタチ 23

 現代社会に忍び寄る“暴力によらざる革命”、「文化マルクス主義」とは一体何なのか?
 国際勝共連合の機関紙『思想新聞』連載の「文化マルクス主義の群像〜共産主義の新しいカタチ〜」を毎週水曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部による加筆・修正あり)

「上部構造の変革」促す文化共産主義宣言
ジェルジ・ルカーチ➁

▲ジェルジ・ルカーチ(1885〜1971)

 ルカーチは「タナーチ共和国」崩壊でウィーン亡命後、政治的立場を失うのと逆に、共産主義理論家として「深化」を遂げ、フランクフルト学派に決定的な影響を与えた主著『歴史と階級意識』を著しました。

 ルカーチは同著で、ヘーゲルの影響下だった「青年マルクス」を「封印」してきたエンゲルスを中心とした「正統派」の「難点」を批判。このアポリア(解決糸口を見いだせない難問)とは、①過去20年にわたる社会主義的労働組合(第2インター)の指導者により実践されてきた「経済主義」 ➁過去のマルクス主義哲学者たち(エンゲルスら)の科学主義に顕著に見られた自然必然性の強調—という二つの方向性でした(『アフター・マルクス』)。

エンゲルスを批判し弁証法を再定義
 ここで指摘したいポイントは、1920年代のマルクス主義思想に、①客観主義的・科学主義的傾向 ②主体(主観)主義・哲学的(弁証法的)傾向—という二つの潮流が存在し、ルカーチは紛れもなく②を代表する人物だったことです。

 この立場からルカーチは、エンゲルスが強調した「自然弁証法」と認識論上の「反映論」について「弁証法理解が不十分」とし、『反デューリング論』を厳しく批判します。

 「エンゲルスは…歴史的過程における主体と客体との間の弁証法的関係に言及しておらず…全ての形而上学においては、対象は手をつけられないままで、かつ変革されないままで置かれ、その結果思惟は観想的なものにとどまって、実践的なものになり得ない」(『歴史と階級意識』)

 マルクス主義認識論では「反映論」は模写説と言い、「客観的実在が意識に反映することにより認識される」としますが、ルカーチはエンゲルスは「真の弁証法」ではないというのです。

 ルカーチはまた、マルクスの「階級意識」に関する記述が不十分だったとし、プロレタリアートの現実の主観的意識を超え「帰属された」階級意識、つまりある階級が固有の利害を十分自覚する場合に持つ意識のことを語りました。つまり『歴史と階級意識』の主題は、標題の2語、「歴史=階級意識が実は同一のもの」だということを意味しているのです。

 『歴史と階級意識』で最重要とされる「物象化とプロレタリアートの意識」の章で、ルカーチ独自の「物象化論」が展開されます。

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疎外論を敷衍するも成功しない物象化論
 この「物象化」とは何でしょうか。マルクス自身も『資本論』で「商品の物神(崇拝)的性格」を展開しますが、ルカーチは「階級意識」と同様、さらに敷衍(ふえん:おし広げて説明すること)しようと試みるのです。

 労働者が労働過程でつくった商品には、労働者の人格・精神性も含まれるはずが、資本主義社会では、商品をつくる能力しか評価されない。商品は価格が付与され貨幣に象徴される「交換価値」にしか還元されない、つまり労働そのものも交換価値に還元され、疎外されていくのが資本主義社会の宿命と断じています。

 さらに物象化の結果、「全体像の破壊」が到来—労働が歯車化され、原子化される世界は、主体を失った客体性が全面的に支配する世界だとしました。

 そうした中で、真に主体性を持ちつつ「総体性」の視点に立てるのは唯一、プロレタリアート階級だけであって、この階級こそが理論と実践の弁証法的統一を可能とする—というわけで、従来の議論の一切は、結局のところ「階級論」に帰してしまい、哲学上の「本体論」(本質論)的には、「汎階級論」になります。

現代社会に生きる人格としての「ブランド力」
 ルカーチは『歴史と階級意識』で、資本主義の歯車の中で労働者個人は「アトム化」されてしまっている、と断じました。しかし商品が買い手にとって交換価値のみであり、商品に労働者の人格が現れない、とは言いきれません。

 つまり商品には「労働者の総体」としての「法人格」という「人格」が備わっており、今日的表現では「ブランド力」とも言えます。トヨタやソニー、アップルといったブランドへの評価は「信用」と言い換えられます。そうした企業で働く労働者は、企業ブランドの矜恃(きょうじ)を背負った立場で働いているのです。

 ですから「どこで作った製品も同じ」の古い資本主義観の時代から「ブランドを選択する時代」へと質的に転換したのです。この転換が「競争力」「市場の活性化」を生み、社会主義経済を打ち負かしました。ある意味、「物象化の宿命」に押しつぶされたのは、社会主義経済の方なのです。

 「ブランド力」を説明するには、そうした交換価値と使用価値とも違う「第三の軸」が必要です。それは「信頼価値」と言えるものかもしれません。ルカーチは資本主義市場は「金で買える価値」だけと見なしましたが、例えば株式市場では、株自体は金で買えたとしても、その値には「金で買えない価値」すなわち「ブランド力(愛)」が大きく反映されるのです。

 こうしたある人のブランドに対する「信頼」は、ある種「嗜好」「趣味」という次元ばかりか、「愛」という領域にまで及んだりもしますが、「実用価値」という概念ではうまく説明ができません。

「思想新聞」2024年6月15日号より

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