2024.07.24 17:00
共産主義の新しいカタチ 22
現代社会に忍び寄る“暴力によらざる革命”、「文化マルクス主義」とは一体何なのか?
国際勝共連合の機関紙『思想新聞』連載の「文化マルクス主義の群像〜共産主義の新しいカタチ〜」を毎週水曜日配信(予定)でお届けします。(一部、編集部による加筆・修正あり)
「上部構造の変革」促す文化共産主義宣言
ジェルジ・ルカーチ①
「ロシア・マルクス主義の異端児」トロツキーに続くのは、「ユーロ・コミュニズム」の思想家たちです。その筆頭には、「フランクフルト学派」の成立に深く関わったジェルジ・ルカーチが挙げられます。
ハンガリー(当時ハプスブルク帝国領、正式:オーストリア=ハンガリー二重帝国)のユダヤ人銀行家の家系に生まれたルカーチの人生は、マルクスのたどった境涯を彷彿(ほうふつ)させます。
芸術家らを庇護するほどの裕福な家庭環境で、ルカーチは、独墺系のさまざまな大学に遊学し学位を取得するものの、マルクスと同様ユダヤ系の出自のため教授職を得られませんでした。後に、1946年にブダペスト大学美学教授となることで実現します。
ルカーチは遊学時代、W・ディルタイやG・ジンメル、マックス・ウェーバーらの影響を受けました。
ヘーゲル哲学をマルクス主義に採り入れたルカーチは、「ユダのようにキリストを十字架にかけることが共産主義者の天職」と考え、かつてマルクスが神に復讐を誓った故事を彷彿させます。それはまさに、ヘーゲル哲学の「転倒」にほかならず、「転倒されたメシアニズム」つまり「神なきユートピア」とも言い換えられるでしょう。ここから1923年、共産主義者としての重要な著作、『歴史と階級意識』を書き上げます。
文化人民委員として家族崩壊政策を推進
米国保守派の大立者P・ブキャナンは、ルカーチについて「『歴史と階級意識』でマルクスに比肩する思想家と認められたコミンテルン指導者。《社会を変える唯一無二の手段は革命による破壊》だと彼は言った。《古い価値の根絶と、革命による新しい価値の創造なくして世界共通の価値転覆は起こりえない》と。ベラ・クン体制で教育人民委員代理となったルカーチは自らの《天才的》アイデアを実践に移し、《文化テロリズム》をもたらした」(『滅びゆく西洋 病むアメリカ』)と述べています。
この「文化テロ」とは、ルカーチは「ハンガリー・タナーチ(=評議会)共和国」と呼ばれたハンガリー共産党のベラ・クン政権において文化人民委員として行った文化革命的な政策で、次のようなものでした。
「彼は過激な性教育制度を実施。ハンガリーの子供たちは学校で自由恋愛思想、セックスの仕方、中産階級の家族倫理や一夫一婦婚の古臭さ、人間の快楽をすべて奪おうとする宗教理念の浅はかさについて教わった。女性も当時の性道徳に反抗するよう呼びかけられた。こうした女性と子供の放縦路線は西洋文化の核である家族の崩壊を目的としていた」(同書)
一時的であれ、共産政権の最高幹部の一人でした。ところが、革命政府の政策はあらゆる点で国民の不興を買いました。警察・憲兵隊の解散と新軍隊編成、大中規の企業の国有化、大規模所有地を没収される一方、自作農育成策もないものでした。加えて社会的には反教会・反宗教の嵐が吹き荒れ、教育政策では恐るべき過激性教育が実施されます。伝統的価値観を重んじる国民の不満・不安が増大したゆえんです。
この後、ルカーチはコミンテルンにおける理論家として名を馳(は)せます。特に指摘すべきは、彼の主著『歴史と階級意識』がフランクフルト学派の成立に重要な契機となったことです。
いわゆるフランクフルト学派はホルクハイマーを中心に結成されますが、当初はユダヤ資本を元にフランクフルト大学「社会研究所」として発足しました。
上部構造を変革してこそ革命が成就
ルカーチが自任したのは、マルクスが残した未解決の課題を発展的に敷衍すること、つまり下部構造だけでは成就できなかった革命を「上部構造の変革」で完成させることでした。これがまさに、「文化共産主義」の理論的出発点と言えるのです。
「労働者が生産の領域で実行していること、これを魂の生の領域で行うのが教育の使命。つまり階級差を廃棄すること」(「共産主義の道徳的基盤」)
「共産主義社会の目標は階級差を廃棄することである。階級差の廃棄とは、経済秩序の、生産の変更を意味する。今プロレタリアートが携わるこの新しい生産秩序の創出は、しかしまだその過程を閉じ得ていない。内面の、教育に応じた、文化的、等々の特権は、生産秩序の変化によって存在をやめたわけではない。この変更も単に一つの可能性を、内面の平等の可能性を創るだけなのだ。この可能性の実現は、別の仕事の、教育の仕事の課題である」(「文化の本当の占有」)
以上のルカーチの要諦、「下部構造(生産の領域)の変革は単なる条件にすぎず、上部構造(魂の領域)の変革を遂げてこそ革命は完結する」というものです。特に見逃せないのは、「内面の平等の可能性」という表現であり、彼の「教育の目的」はまさにそこにあります。これがまさしく、「文化共産主義の宣言文」と言えるものでしょう。(続く)
★「思想新聞」2024年6月15日号より★
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