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ダーウィニズムを超えて 68

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「ダーウィニズムを超えて」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
 生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
 そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。

統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著

(光言社・刊『ダーウィニズムを超えて科学の統一をめざして』〈2018520日初版発行〉より)

第七章 混迷する神なき現代物理学

(二)混迷する素粒子物理学

 1980年代に入って、物質粒子のすべて(クォークとレプトン)が発見され、重力以外の相互作用のメッセンジャー粒子(ゲージボソン)も理解できるようになった。1983年には弱い相互作用のゲージボソン(W-W+)が発見され、1995年には、最後に残っていたトップクォークも発見された。かくして六つのクォーク、六つのレプトン、12のゲージボソンからなる素粒子物理学の標準モデルができあがった。しかし素粒子物理学も深刻な問題に直面している。

(1)素粒子の数理性はなぜ生じたのか
 レーダーマンは素粒子のもつ電荷がなぜプラスとマイナスになっているのか、また電荷がなぜ、みな整数倍になっているのか謎であるという。

 自然界では電荷は整数である——0、1、2……。その整数は、さっきのクーロンの数字を整数倍したものだということが前提だ。電荷にはまた、二つの形があるプラスとマイナスだなぜかは分からないとにかくそうなっている。激しい衝突かポーカーゲームで電子が電荷の12パーセントを失うような世界もあるかもしれない。だが、われわれの世界ではそんなことは起こらない。電子、陽子、パイ・プラス、などはつねに1.0000の電荷をもっている(*6)。(太字は引用者)

 宇宙は一見したところ2種類のクォーク(アップクォークとダウンクォーク)、そして2種類のレプトン(電子とニュートリノ)という、たった四つの基本要素から構成されているように見えた。ところが、それぞれの粒子に三つの世代があり、クォークが6種類、レプトンが6種類、合わせて12個の物質を形成する粒子が存在することが分かった。さらにそれぞれに反粒子が対応しているので、それを入れれば物質粒子は24個になる。一方、力を媒介するゲージボソンは12個が知られている。さらにクォークには三つの色があるので、それも考慮に入れれば、結局、クォーク18、反クォーク18、レプトン6、反レプトン6、ゲージボソン12で全部で60個の素粒子があるということになった。

 2008年のノーベル物理学賞を受賞した小林誠と益川敏英は、クォークの存在が三つしか知られていなかった時に、CP対称性の破れにより粒子と反粒子にわずかの差が生じることを説明するためには、クォークは少なくとも6種類存在しなくてはならないことを明らかにした。ビッグバンのあとで、粒子と反粒子が対称的であったとすれば、粒子からなる宇宙は生じることはできなかったのである。しかしなぜクォークのタイプが6種類なのか、本質的なことは分かっていない。クォーク、レプトンになぜ三世代があるかということも謎となっている。

 自然界には、重力、電磁力、強い力、弱い力という四つの基本的な力があるということが知られている。この四つの力についても、なぜ四つなのかという問題がある。物質をつくっているのが、アップクォーク、ダウンクォーク、電子、電子ニュートリノという四つの基本粒子であるということ、化学作用はすべて光子、電子、陽子、中性子の四つの素粒子から導けるということ、古代ギリシア人が唱えた火、水、土、空気の四つの元素など、なぜか自然界を構成する要素は四つになっている。しかし、なぜそうなっているのかということは謎なのである。

(2)粒子になぜ質量があるか
 粒子になぜ特定の質量があるかということも、分かっていない。クォークもレプトンも三世代になっているが、世代間で質量が大きく異なっている。なぜそうなっているかも、分かっていない。

 粒子はなぜ質量をもつかということに関してはヒッグス機構が考えられている。もともとすべての粒子の質量はゼロであるが、ヒッグス粒子で埋め尽くされている真空(ヒッグス場)の中を通る時、ヒッグス粒子と相互作用し、ヒッグス粒子にまとわりつかれて重くなるのだという。その時、ゲージ粒子はヒッグス場を感じないので質量はないが、ゲージ粒子の中でもウィークボソンだけはヒッグス粒子にまとわりつかれて重くなるのである。

 ここに階層性問題というものがある。三つの力が統一(大統一理論/GUT)され、さらに重力の効果が無視できなるプランクスケール質量と、既知の素粒子の質量の比がとてつもなく大きいということである。つまり、われわれの四次元世界では、すべての基本粒子の質量がプランクスケールより16桁も小さく見えるのである。この階層性問題は、標準モデルが抱える謎のなかでも最も緊急な課題であるという。今、世界で最も注目されている女性物理学者のリサ・ランドール(Lisa Randall)が言うように、「この謎——すなわち階層性問題——は素粒子物理学の理解における大きな穴となっている(*7)」のである。

(3)対称性の破れ
 磁石において、高温では成り立っていた対称性(小さなNSの磁石がばらばらな方向を向いている)が温度が低くなると、その対称性が破れる(小磁石が同じ方向を向く)。対称性の破れを、そのように理解することができる。

 1950年代までは、自然には偏りがない、つまり本質的に右利きだったり左利きだったりする作用はないと信じられていた。しかし、対称性は自然に破れていることが明らかになった。

 1961年に、シカゴ大学の理論物理学者、南部陽一郎は「対称性の自発的破れ」理論を提唱した。それにより粒子が質量をもつことが説明されるようになり、やがてピーター・ヒッグス(Peter Higgs)によるヒッグス機構が提唱されることになった。南部は2008年のノーベル物理学賞を受賞した。彼はひも理論の提唱者の一人でもあり、クォークのカラー理論の提唱者としても知られており、物理学における多くの創造的なアイデアを提唱したことで「物理学の予言者」と呼ばれた。

 宇宙は完全に対称な状態から始まり、やがて私たちが住んでいる対称性の少ない宇宙になったと考えられる。対称性の破れこそが、この世界を造り出したと言える。レーダーマンは、対称で退屈な世界から、対称性の破れた、われわれの世界をもたらしたのはヒッグス場であると言う。

 お分かりかな。ヒッグス以前は、対称性と退屈、ヒッグス以後は、複雑性と興奮。こんど夜空を見たときには、すべての空間はこの神秘的なヒッグス場の影響で満たされていることに気づかなくちゃいけないよ。この理論の主張するところでは、われわれの知っているこの世界、われわれの愛するこの世界に複雑さをもたらしたのはヒッグス場だという(*8)。(太字は引用者)

 しかし、なぜヒッグス場のようなものが作用して、宇宙は今あるような形で対称が破れたのか、大きな謎である。

(4)自然法則とパラメーター
 自然法則とは、自然に一意的に与えられたものであり、宇宙の始めから永久に変わりないものであると考えられていた。しかし自発的な対称性の破れによってそうは言えなくなったと理論物理学者のリー・スモーリン(Lee Smolin)は言う。

 自発的な対称性の破れを根本的な理論で使うことで、自然法則にとってだけでなく、自然法則とは何かという最も広い問題について、核心を突く帰結を得ることになった。これ以前には、素粒子の特性は、どこまでも与えられている自然法則によって直接に決まるものと考えられていた。しかし自発的な対称性の破れを含む理論では、新しい要素が入ってくる。素粒子の特性は、一部、歴史や環境に依存するということである。対称性は、密度や温度のような条件によって、いろいろな破れ方をする。……これは、素粒子の特性は絶対の法則によって永遠に定まっているという、通常の還元論からは切れていることをうかがわせる(*9)。(太字は引用者)

 さらに標準モデルには、自由に調整できるパラメーターがある。素粒子物理学の標準模型には、未決定のパラメーターが19個あるいは二十数個あるといわれている。これらのパラメーターは、観察されている宇宙の至る所で同じように見えるので「自然定数」と呼ばれている。そこで物理学者たちは、標準モデルを超える統一理論によって、自然界の法則やパラメーターはすべて一意的に説明できるのではないかと期待しているのである。しかし、誰もそのような統一理論を提示できないでいる。


*6 レオン・レーダーマン、高橋健次訳『神がつくった究極の素粒子』草思社、1997年、下巻、162163頁。
*7 リサ・ランドール、向山信治監訳、塩原通緒訳『ワープする宇宙』NHK出版、2007年、328頁。
*8 レオン・レーダーマン『神がつくった究極の素粒子』下巻、280頁。
*9 リー・スモーリン、松浦俊輔訳『迷走する物理学』ランダムハウス講談社、2007年、100101頁。

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 次回は、「超ひも理論は統一理論になりえるか①」をお届けします。


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