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ダーウィニズムを超えて 67

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「ダーウィニズムを超えて」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
 生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
 そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。

統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著

(光言社・刊『ダーウィニズムを超えて科学の統一をめざして』〈2018520日初版発行〉より)

第七章 混迷する神なき現代物理学

 20世紀を迎えて自然科学は驚異的な発展を遂げた。その一つがマクロな宇宙に適用されるアインシュタインの相対性理論であり、もう一つがミクロな素粒子世界に適用される量子力学であった。しかし今日、宇宙の創造主である神を排除して、数学と法則のみによって、宇宙の根本を解明しようとする科学者の探求は、大きな壁にぶつかっている。混迷する現代科学の状況を見つめながら、今後の新たな展望を考察してみることにする。

一)混迷する宇宙論

 MITのアラン・グース(Alan Guth)、東大名誉教授の佐藤勝彦等によるインフレーション理論によれば、宇宙の始まりは次のようであった。

 初めに宇宙は真空であったが、そこには潜在的なエネルギーが貯えられていた。その真空のエネルギーが、ある値からもう一つの値へと、ほんのわずかな間、転がり落ちた。ダムの決壊になぞらえると、せき止められていた水が突然あふれ出し、海水面まで流れ落ちるように、偽の真空が真の真空へと移行した。そのときインフレーションが起きた。10のマイナス30乗秒の間に陽子よりも小さかった宇宙の半径はソフトボールよりも大きくなり、およそ1050乗倍にもふくれあがった。その間、潜在的なエネルギーは自らを粒子として現すことはできなかった。宇宙は空っぽなままであった。やがて真空に隠されていたエネルギーは粒子と反粒子へと凝結した。粒子は対消滅し、その結果生じたエネルギーの洪水によって、ビッグバンが始まった。インフレーションの終わりに起きた対称性の破れが、物質と反物質のわずかな差を生み出し、その残余分からわれわれの宇宙である物質世界が建設されることになった。

1)インフレーション、ビッグバンはなぜ起きたのか
 どうしてインフレーションとビッグバンが起きたのか、という疑問に対して宇宙論は答えていない。サイエンス・ライターのポール・ディヴィス(Paul Davies)は言う。

 ほとんどの人が、私たちが知っている宇宙は、あるとき突然巨大な爆発によって始まったということを受け入れるにやぶさかではないが、これに関連する二つの難しい質問をせずにはいられない。それは、『何がビッグバンを起こしたのか?』そして『その前には何があったのか?』という問いだ(*1)。

 イギリスの数理物理学者のジョン・バロウ(John D. Barrow)も言う。

 宇宙に始まりがあることにもなった。それ以前には宇宙が(たぶん時間そのものが)存在しない時点のことだが、この始まりがなぜあるか、何のためにあるのかについては、ビッグバン説は何も言わなかった(*2)。

 ミューニュートリノを発見し、1988年のノーベル物理学賞を受賞した、レオン・レーダーマン(Leon Lederman)に至っては、「われわれには永久に分からないかもしれない理由によって、宇宙は爆発し、以来、膨張しつづけ、冷えつづけている(*3)」と言っている。

2)量子的なゆらぎによって宇宙はできたのか
 量子力学では、物理的な物体の振る舞いは本質的に予測不可能であり、何の原因もなく起こる量子的な過程があるとされている。そこで宇宙は何の原因もなく、「真空のゆらぎ」から生まれたのではないかというアイデアが、ニューヨーク市立大学ハンター校のエドワード・トライオン(Edward Tryon)によって提案された。旧ソ連からアメリカに移住したアレックス・ビレンキン(Alex Vilenkin)は、トライオンのアイデアを発展させて、無からトンネル効果によって宇宙は出現したという「無からの宇宙創生」を唱えた。トンネル効果の直後の宇宙は偽の真空で満たされていたが、ただちにインフレーションを始め、瞬間的に急激に膨張した。無とは、いかなる物質も、空間も、時間もない状態であるが、全く何もない無ではなくて、エネルギーに満ちた無である。アラン・グースによれば、宇宙は真空からほとんど労せずに生じるのであり、宇宙は究極のフリーランチ(タダ飯)であるという。

 それでは、核爆発のようなインフレーションやビッグバンから、いかにして、現存する宇宙の見事な美しい構造が生まれたのであろうか。それに関して宇宙論研究者たちは、宇宙の始めに、さざ波のような量子のゆらぎがあって、それが銀河団、銀河、太陽系、地球、そして植物、動物、われわれ人間を生み出したという。果たして、さざ波のようなゆらぎによって、そのようなことが可能であったのであろうか。われわれは量子のゆらぎの産物にすぎないのであろうか。

 さざ波のようなゆらぎはランダムなものである。デザインも何もなく、単なるゆらぎから、われわれの宇宙が生じたという。これはランダムな突然変異によって生物は進化したというダーウィン進化論と軌を一にするものである。結局、「タダ飯」と「ゆらぎ」によって宇宙は生まれたというのが、今日の宇宙論の結論である。

3)宇宙の法則はいかにして生じたのか
 さざ波のようなゆらぎから生まれた宇宙に物理法則がいかにして刻み込まれたのであろうか。レーダーマンは宇宙が始まる前に諸法則は準備されていたが、なぜそうなのかは物理学の範疇(はんちゅう)ではないという。

 宇宙が始まるためには、時間さえ始まる以前に、すでに自然の諸法則の準備ができていたにちがいない。われわれはそう信じ、そう表明しているが、証明はできるのだろうか? それはできない。「時間が始まる以前」についてはどうか? こうなるとわれわれは物理学を離れ、哲学の世界に入ってしまう(*4)。(太字は引用者)

 宇宙の始めに数理的な法則があったということは、宇宙の背後に偉大な数学者、偉大な物理学者が存在しているということである。

4)インフレーションは永遠に続くのか
 アレックス・ビレンキンとロシアの宇宙論研究者アンドレイ・リンデ(Andrei Linde)は、インフレーションは永遠に続くと、永久インフレーションモデルを提唱している。それによれば、インフレーションを続ける広大な宇宙の中に、泡のように無数のポケット宇宙が点在するのであり、われわれが住むのは、その無数のポケット宇宙の中の一つであるという。一方、佐藤勝彦らは宇宙の多重発生を提唱している。最初の宇宙を母宇宙(マザーユニバース)とすれば、そこから子宇宙(チャイルドユニバース)が生まれ、やがて孫宇宙、ひ孫宇宙と続いていくという。これらの理論はマルチバース(多宇宙)理論と呼ばれるようになった。

 マルチバースによれば、われわれの宇宙とあらゆる点で同じ宇宙も無数に存在し、われわれとほとんど同じ人間が住む、無数の地球が存在することになるという。ビレンキンによれば、私たちの歴史と全く同じ歴史をもつ領域が無限にたくさんあるにちがいないのであり、アル・ゴアが大統領になった領域もあり、エルヴィス・プレスリーが生きている領域もあるという(*5)。こうなると、これは科学というよりも、SFということになりそうである。

5)ダークマター・ダークエネルギーの謎
 宇宙論研究者たちによって、宇宙の26%はダークマター(暗黒物質)という、未知の不可解な物質で成り立っていることが明らかにされた。この不思議なダークマターは、直接は見えないが、莫大(ばくだい)な質量がレンズのように星の光を曲げるため、その光学的な歪みの量からその存在が突きとめられたのである。

 さらに驚くべきことに、宇宙の69%がダークエネルギー(暗黒エネルギー)という全く未知の形態のエネルギーで占められていることが明らかにされた。それは真空にひそむ、見えないエネルギーである。ダークエネルギーは宇宙膨張の速度を加速させるアクセル役を果たしていると考えられている。そしてダークエネルギーは、宇宙が膨張しても薄まることはないと考えられている。この暗黒の無のエネルギーの出どころは全く分からず、それが何なのか、誰にも分からない。これは宇宙の母体ともいうべき、汲(く)めども尽きない根源的なエネルギーが宇宙を包んでいるということである。


*1 ポール・ディヴィス、吉田三知世訳『幸運な宇宙』日経BP社、2008年、118頁。
*2 ジョン・バロウ、松浦俊輔訳『宇宙の定数』青土社、2005年、180頁。
*3 レオン・レーダーマン、高橋健次訳『神がつくった究極の素粒子』草思社、1997年、下巻、298頁。
*4 レオン・レーダーマン『神がつくった究極の素粒子』下巻、324頁。
*5 アレックス・ビレンキン、林田陽子訳『多世界宇宙の探検』日経BP社、2007年、188191頁。

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 次回は、「混迷する素粒子物理学」をお届けします。


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