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facts_3分で社会を読み解く 21
上院の反対を押し切って新たな反カルト法を可決したフランス政府

ナビゲーター:魚谷 俊輔

 2024年49日にフランスの「反カルト法」が改正されたことを受けて、この法律の背景を説明するシリーズの4回目である。

 この法律は、法案提出から採択まで随分と時間がかかった。
 それは202312月に開かれたフランスの上院法務委員会が同法案を検討し、「心理的服従」という新たな犯罪の導入を規定した条文を削除したためだ。

 その法案がそのまま上院の本会議に送られて可決された。これは奇跡的に最悪の事態が回避されたようなものだ。加えて、「医学界が承認した治療を拒否するよう誘導する」という新たな犯罪の導入も見送られることとなった。

 この修正の背景には、米国国際宗教自由委員会(USCIRF)が、フランス政府が提案している「反カルト法」の修正案について、「信教の自由にとってこれまで以上に危険なものとなるだろう」との懸念を表明したことがあるといわれている。

 USCIRFは、1998年に米国で制定された国際宗教自由法によって設立された、独立した超党派の米国連邦政府委員会である。
 その委員は大統領および両党の議会指導者によって任命され、その主たる目的は、世界の宗教の自由の状況を監視することだ。

 フランスのカトリック教会は目立った反対の動きをしなかったようだが、フランス国内のプロテスタント教会は反対の声を上げた。
 こうした国内外の動きが、上院における修正を後押ししたと考えられる。

 しかしそれで一件落着とはいかなかった。上院で修正された法案が下院である「国民議会」に送られた際、フランス政府は上院で削除された条項を復活させて、下院で通そうと強力に働きかけたのだ。
 その結果、政府の原案どおりの法案が下院で可決され、それが再び上院に送られて審議される事態となった。

 結局、政府は上院を説得できず、202442日に再び上院が、下院から戻された条文全体を否決した。
 しかしフランス独特の制度の下では、法案に関して上院と下院が相いれない立場を表明した場合、最終的には下院の投票が優先されることになる。

 政府はこの条文に賛成するよう下院議員に激しく働きかけたのだが、下院でも反対は大きく、法案は146票の「賛成」、104票の「反対」という結果となった。
 こうした紆余(うよ)曲折を経て、フランスは上院の反対を押し切って、ついに改正「反カルト法」を可決したのである。

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