2024.06.17 22:00
facts_3分で社会を読み解く 20
「アブ・ピカール法」の限界と法改正への動き
ナビゲーター:魚谷 俊輔
2024年4月9日にフランスの「反カルト法」が改正されたことを受けて、この法律の背景を説明するシリーズの3回目である。
先回は、2001年にフランスで「アブ・ピカール法」と呼ばれる反セクト法が制定された経緯を説明した。
フランスの反セクト法が10周年を迎えた2011年に、新宗教を研究しているカナダの有名な学者スーザン・J・パーマーは、オックスフォード大学出版局から『フランスの新しい異端』という本を出版した。
パーマーは反セクト法に対する国際的な批判を総括し、この法律がどのように執行されたかに関する詳細な研究の結果を発表した。
彼女は2022年に提出された会議の論文でそれをアップデートしたが、結果は似たようなものであった。
手短に言えば、この法律は弱者には強く、強者には弱いことを彼女は発見したのである。
それはいくつかの小さなグループ、そのほとんどが数十人の信者しかいないようなグループのリーダーたちに対して、「精神的依存の状態をつくり出す技術」を用いたとして、有罪判決と禁固刑をもたらした。
反セクト主義者たちは、彼らが典型的な「セクト」として非難するサイエントロジーやエホバの証人のような組織をこの法律が破壊するだろうと宣言していたのだが、実際にはこれらの団体に対する執行が成功することはなかったし、数千人の信者を持つ大きな団体に対しては一つも成功しなかった。
要するに、良い弁護士を雇うだけの資産を持たない小さなグループに対してのみ、この法律を執行することができたのだ。
そこでMIVILUDES(セクト的逸脱行為関係省庁警戒対策本部)は数年前から、本来のターゲットである大きな新宗教を「洗脳」罪で告発できるようにするための法改正を政府に求めてきた。
2023年11月15日、政府は「セクト的逸脱との戦いを強化する」ための法案を提出した。
「セクト」に対する新たな取り締まりの理由として、MIVILUDESが受け取る「通報」の数が増加していることが挙げられた。
そして2024年4月9日、数カ月にわたる議論の末、ついに法改正が採択された。
すなわちフランスは時間を2000年に戻して、2001年に「アブ・ピカール法」の起草者らが憲法上の懸念により断念せざるを得なかった、「心理的服従」という名の事実上の「洗脳」罪を導入する決断をしたのである。
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