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facts_3分で社会を読み解く 19
2001年のフランス「反カルト法」の実際

ナビゲーター:魚谷 俊輔

 2024年49日にフランスの「反カルト法」が改正されたことを受けて、この法律の背景を説明するシリーズの2回目である。

 先回は「太陽寺院」事件を受けて、1996年に「セクト」と闘うための省庁間機関MIVILUDES(セクト的逸脱行為関係省庁警戒対策本部)がつくられたところまで説明した。

 しかし「セクト」を取り締まる法律を導入することは、専門機関をつくること以上に困難であることが判明した。
 問題は、いかにして「セクト」を識別し、合法的な宗教と区別できるのかにあった。宗教的な異端の意味で「セクト」を定義してしまえば、政教分離の原則に反してしまう。

 そこで、1990年代末に起草されたフランス法の原案は、合法的な宗教には自由意思によって入会するのに対して、「セクト」への回心は「精神操作」「マインド・コントロール」「洗脳」などのテクニックによってもたらされるのだと定義し、厳しい禁固刑を伴う「精神操作」の罪をつくり出したのである。

 この段階で、米国のゴードン・メルトン氏やイタリアのマッシモ・イントロヴィニエ氏を含む国際的な新宗教運動の学者たちがこの法律に反対した。
 彼らは過去20年間にわたる論争が導き出した結論は、「精神操作」や「洗脳」は存在しないということだと論じたのだ。

 彼らは、この法律は憲法に違反して、不人気な宗教を差別する手段になると批判し、それにフランスの上級判事や閣僚を含む政治家たちが同調した。
 長い議論の末、「精神操作」に対する全ての言及を原案から削除することが決定された。

 ところが、反セクト主義者たちからの圧力が続き、最終的には「精神操作」ではなく、「精神的依存の状態」に置くことによって「人の判断力を歪(ゆが)める効果のある技術」を有罪とする法律が2001年に成立してしまった。
 「精神操作」そのものを犯罪化することを断念し、「脆弱性の悪用」を禁止するという文言に修正したのである。

 ニコラ・アブ上院議員とカトゥリーヌ・ピカール下院議員が、これは批判された「精神操作」や「洗脳」とは違うものなのだと言って彼らの同僚の多数派を説得した結果、法案は可決された。そこでこの二人の名前を取って、この法律は「アブ・ピカール法」と呼ばれている。

 しかしこの法律は、一部の弱小グループを検挙することには成功したが、反カルト運動が真のターゲットとしていたサイエントロジーやエホバの証人などの大きなグループを取り締まることはできなかった。

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