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ダーウィニズムを超えて 61

 アプリで読む光言社書籍シリーズとして「ダーウィニズムを超えて」を毎週日曜日配信(予定)でお届けします。
 生物学にとどまらず、社会問題、政治問題などさまざまな分野に大きな影響を与えてきた進化論。現代の自然科学も、神の創造や目的論を排除することによって混迷を深めています。
 そんな科学時代に新しい神観を提示し、科学の統一を目指します。

統一思想研究院 小山田秀生・監修/大谷明史・著

(光言社・刊『ダーウィニズムを超えて科学の統一をめざして』〈2018520日初版発行〉より)

五章 心と脳に関する新しい見解

(六)新しい精神療法への道

2)精神療法と生理学的治療法
 現代の精神医学の歴史は、精神分析に代表される精神療法と、薬に代表される生理学的治療法の競争としてとらえることができる。ところが今日、生理学的治療法が精神療法を圧倒する状況にある。トロント大学の歴史学者エドワード・ショーター(Edward Shorter)は次のように述べている。

 20世紀の終わりにあたって、なにか知的な現実があるとすれば、それは精神医学への生物学的なアプローチが未曾有の成功を収めていることだろう。精神の病を遺伝に影響された脳内化学の障害と考えて治療するアプローチである。50年にわたって精神医学の歴史を支配してきたフロイトの考えは、雪解けのあとの雪のように消えつつある(*69)。

 精神病に対してフロイト派の流れをくむ心理学的アプローチから、生理学的アプローチに流れが移ってきた背景には、経験より遺伝子こそが人間の心を形づくるもとであるという、今日の神経科学の風潮がある。そしてホーガンが言うように、「ますます多くの科学者と一般大衆が、人間の精神を理解して癒すための鍵は遺伝子にある、と信じつつある(*70)」からである。

 行動遺伝学は、遺伝子と環境がいかに人間の形質や疾病に影響を及ぼすかを追求し、精神分析に取って代わろうとした。行動遺伝学の研究者たちは、さまざまな遺伝病のみならず、精神分裂病、躁鬱(そううつ)病、アルコール依存症まで含めた病気の遺伝子を発見できると主張し、その結果、より適切な治療法が発見され、こうした病気を治すことができると期待したのである。ところがホーガンが指摘しているように、遺伝子を特定することによって、それがそのまま治療にはつながらなかった。そして、より複雑な精神病に対しては遺伝子を特定することもできず、治療することにも役立たないことが明らかになってきているのである。

 行動遺伝学のほかに、精神分析に取って代わろうとしているのが、心を進化論の立場から自然選択によって説明しようとする進化心理学である。しかし、ホーガンが言うように、たくましく生き、繁殖していくことを人間の根本的条件と見る進化論者にとって、動物とは異なる人間の心がいかにして生じたのか、明らかにすることはできない。例えば、親が子供を虐待したり、殺したりする異常な行動に対して、何の洞察も与えることができないのである。

 結局、精神分析に代表される精神療法も、薬に代表される生理学的治療法(遺伝子治療も含めて)も、そして生物学的立場からアプローチしようとする進化心理学も、いずれも限界を呈しているのである。すなわち、問題の核心に迫っていないのである。


*69 ジョン・ホーガン、竹内薫訳『続・科学の終焉』徳間書店、2000年、163頁。
*70 同上、206

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 次回は、「新しい精神療法への道③」をお届けします。


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