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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

経済不振の中国の焦りが透けた日中韓首脳会談

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、520日から27日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状にイスラエルとハマス強く反発(520日)。バイデン大統領、逮捕状請求発表のICCを「言語道断」と非難(20日)。台湾総統就任式、中国が日本の議員出席に「協調精神に反する」と抗議(21日)。台湾で立法院の改革法案巡り野党案に反対1万人以上が抗議活動(21日)。欧州3カ国(スペイン、アイルランド、ノルウェー)がパレスチナ国家承認表明(22日)。ニッキー・ヘイリー氏、トランプ氏への投票を明言(22日)。中国軍、台湾を取り囲む形で軍事演習(23日、24日)。日中韓首脳会談を韓国・ソウルで開催(26日、27日)などです。

 日中韓首脳会談が526日、27日の両日開催されました。
 26日は主に、2国間の首脳会談が連続的に行われました。4年半ぶりのことです。

 この会談をもって、3カ国が直接間接に関わる安全保障問題や経済・貿易問題、人的交流や経済協力、保険などの分野で議論を行い、共同宣言がまとめて公表されました。

 安全保障問題では、核・ミサイル開発を進める北朝鮮情勢、台湾、南・東シナ海における事項についても協議されました。

 しかし結果として見えてくるのは、中国の狙いです。
 現在不況下にあって新たな道を開こうとして、日中韓FTA(自由貿易協定)交渉を再開することや、日韓が共に連携する米国へのけん制が非常に目立ちました。

 事前に、日中韓首脳会談で採択される共同宣言の原案(要点のみ)が明らかにされました。
 以下(参照:「読売」525日付)のごとくです。

◇北朝鮮の核・ミサイル開発の加速を念頭に、朝鮮半島と北東アジアの平和と安定の維持は、われわれの共通の利益および責任。朝鮮半島の完全な非核化はわれわれの共通目標であることを確認する。

◇法の支配に基づく国際秩序への関与も確認するほか、力または威圧による一方的な現状変更は受け入れられないとの認識を共有し、国際法や国家間の合意に基づく義務を順守する重要性を確認する。

◇ルールに基づく、開かれた公正な国際経済秩序の維持・強化に責任を持つことを確認し、日中韓3カ国間の貿易量を今後数年間で1兆ドル(現在約7000億ドル)まで拡大するとの目標を共有する。日中韓FTA交渉を再開、加速化で一致する。

◇3カ国協力を巡っては、人的交流 持続可能な開発と気候変動 経済協力と貿易 公衆衛生と高齢化社会 科学技術とデジタル化 災害救援の6分野で協力の強化を目指す。

◇3国協力を前進させるため、首脳や閣僚による会談を定期的に開く必要があるとの認識を共有する、などです。

 ところが、発表された共同宣言(参照:527NHK Web版)の内容には、日韓米にとって肝心なこと(安全保障に関すること)が明記されていません。まさに拍子抜けです。
 以下、その要点です。

◇朝鮮半島の非核化や拉致問題について、3カ国がそれぞれの立場を強調し、朝鮮半島問題の政治的解決に向けて、引き続き積極的に努力すること合意。

◇朝鮮半島問題をめぐっては、平和や安定、繁栄の維持が3カ国の共通の利益にかない、共通の責任であることを再確認することで合意。

◇国連憲章の目的と原則、法の支配や国際法に基づいて、国際秩序に対するコミットメントを再確認することで合意。

3カ国の首脳会議や外相会議を中断することなく定期的に開催する必要性を確認したことで合意。

◇人的交流の面では、来年と再来年を「3カ国文化交流年」に指定した上で、2030年までに観光などの交流を4000万人に増やすことを目指すことで合意。

◇経済協力・貿易の分野では、3カ国間でFTA=自由貿易協定の交渉を加速させるための議論を継続し自由・公正・包括的で質の高い互恵的なFTAの実現を目指すことで合意。

 などです。

 結局、この首脳会談は、日韓米にとって肝心なことは曖昧なままスルーされ、中国が経済不振から抜け出すためのFTA交渉再開の方向性は明確になったということです。
 そして日韓米の連携にくさびを入れるためのけん制の機会となったということに過ぎません。
 不況から抜け出せない中国の焦りが透けて見えます。



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