2024.05.20 22:00
facts_3分で社会を読み解く 16
マインド・コントロール論を前提とした説得によるトラウマ
ナビゲーター:魚谷 俊輔
東京地裁で審理されている世界平和統一家庭連合(家庭連合)に対する解散命令請求訴訟に、私が提出した意見書の内容紹介の11回目である。
ディプログラミングの後遺症は、実はそれを行う側にも自覚されていた。
元来、脱会説得は牧師などの宗教家が担当してきた。信者の家族の願いは教団からの脱会だったので、カウンセリングの主要な目的は脱会であった。
しかしその中で脱会さえすれば問題が解決するわけではなく、脱会後にもさまざまな問題を引きずることが分かってきたのである。
監禁がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症させる条件となることは理解しやすいが、ディプログラミングによるトラウマは監禁という外的要因によってのみ引き起こされるものではない。
実は、マインド・コントロール論を前提とした説得そのものがトラウマになるのだ。
この点を鋭く指摘したのが、渡邊太氏による「カルト信者の救出――統一教会脱会者の『安住し得ない境地』――」(『年報人間科学』21 225-241, 2000)の論文である。
渡邊太氏の論文を要約すればこういうことだ。
「おまえはマインド・コントロールされている」という指摘は、当人にとっては、「おまえは自分の頭で考える能力を失っている。おまえの意思は自分の意思ではなく、誰かに操られているのだ。だからその状態で何を言おうと、一切認めない」と言われているに等しい。
これが「無効化」である。
続いて、「今のおまえは本当のおまえじゃない。本当のおまえは教団に入る前のいい子だった頃のおまえだ。私はそれが本当のおまえであることを知っている。早く本当のおまえに戻れ!」と迫られる。これが「属性付与」である。
自分が何者であるかを他者に決められてしまうということだ。
さらに、「早く自分がマインド・コントロールされていることに気付け。そして教団の影響力から離れて、自分の頭で考えろ!」と叱責(しっせき)されるのである。これが「自発的たれ!」という命令である。
このようなことをされては、人はいったい何が本当の自分なのか分からなくなり、根源的な不安を感じてしまうに違いない。
家庭連合の信者にとって信仰は自己のアイデンティティーの中核をなすものである。
監禁の有無にかかわらず、主体性を剥奪されて他者から一方的にアイデンティティーを付与されるというのは、心をレイプされるのに等しい。
脱会者の予後が悪いのは、こうした脱会説得の在り方そのものに原因があるといってよいだろう。
【関連情報】
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解散命令請求訴訟に提出した意見書11