2024.05.13 22:00
facts_3分で社会を読み解く 15
ディプログラミングがもたらす被害の深刻さ
ナビゲーター:魚谷 俊輔
東京地裁で審理されている世界平和統一家庭連合(家庭連合)に対する解散命令請求訴訟に、私が提出した意見書の内容紹介の10回目である。
「マインド・コントロール論」が疑似科学であり、新宗教への入信が本人の自由意思によるものであれば、ディプログラミングが正当化されることはない。
それとは別に、ディプログラミングが許されないのは、それが被害者に深刻なトラウマを残すからである。
米国では自発的に「カルト」を辞めた者と、ディプログラミングを受けた者との比較研究がなされているが、一般に前者は精神の健全度を維持できている者が多いが、後者の場合には強度の不安を感じたり、精神的に不安定になったりしている者が多いという結果が出た。
日本における学術的報告としては、池本桂子と中村雅一による「宗教からの強制脱会プログラム(ディプログラミング)によりPTSDを呈した一症例」(『臨床精神医学』第29巻第10号 2000年 1293-1300)がある。
この症例は、家族と牧師による脱会プログラムを受けた後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した女性のケースである。
論文の記述から、女性はエホバの証人の信者であると推察される。
監禁がPTSDを発症させる条件となることは広く知られているが、このケースでは自己決定権の剥奪もトラウマとなる可能性が指摘されている。
こうしたPTSDを発症した元信者についてジャーナリストとして発信したのが米本和広氏である。
もともと米本和広氏は『カルトの子』や『教祖逮捕』など、新宗教に批判的な本を書いてきたルポライターであった。
その彼が2008年7月に出版した『我らの不快な隣人』という書籍の中で、拉致監禁によって統一教会を脱会した宿谷麻子さんのPTSDの問題を取り上げた。
この本は拉致監禁問題を、監禁された人々へのヒアリングだけではなく、両親や元信者、韓国での現地取材に至るまで詳細な取材を行い、総合的に分析したものである。
監禁された人物として、宿谷麻子さんほか、多くの人々が登場する。
宿谷さんの複雑性PTSD発症の原因を担当医は次のように見ている。
「本人の意志に反し拉致監禁されるという身体的自由の拘束とともに、信仰の自由を強制的に、昼夜を問わず奪われ続けたこと、さらにはもっとも近しい肉親に監禁されたという、信頼感の崩壊、裏切られた体験も加わっていると考えます」
なお、宿谷麻子さんは被害者として拉致監禁問題と正面から闘っていたが、2012年10月15日にクモ膜下出血のため逝去された。心よりご冥福をお祈りする。
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