2024.05.06 22:00
facts_3分で社会を読み解く 14
ディプログラミングされた元信者が「マインド・コントロール」を主張する理由
ナビゲーター:魚谷 俊輔
東京地裁で審理されている世界平和統一家庭連合(家庭連合)に対する解散命令請求訴訟に、私が提出した意見書の内容紹介の9回目である。
ディプログラミングによって新宗教から脱会した元信者たちは、「自分は教団によってマインド・コントロールされていた」と主張するケースが多い。
そうした元信者の中には、自分の所属していた団体を相手取って損害賠償請求訴訟を起こす者たちがいる。その代表例が統一教会(現・家庭連合)を相手取った「青春を返せ」裁判である。
こうした裁判が起こされる理由は、反カルト運動の戦略の一環として、脱会したことを証明するための「踏み絵」として元信者に訴訟の提起が要求されるからであるが、中には本気で自分はマインド・コントロールされていたと信じている元信者もいる。
彼らが自分の入信体験を「洗脳」や「マインド・コントロール」などの概念で説明するのは、彼らを脱会させる過程において、まさにそうした概念が教え込まれ、それによって自分の入信体験を説明するように認識が再構築されるからである。
この因果関係は海外の研究によって立証されている。
具体的には、トルーディ・ソロモン、スチュアート・ライト、マーク・ギャランター、マッシモ・イントロヴィニエによる調査が存在するが、彼らは統一教会を含む新宗教の元信者たちに対するアンケート調査やインタビューを行い、ディプログラミングを受けた者や反カルト運動と接触していた群と、自発的に教団を離れた群とを比較した。
その結果分かったことは、反カルト運動と接触していたり、ディプログラミングを受けたりした群は、自分が所属していた団体が「カルト」であり、自分は「マインド・コントロール」されていたと主張する者が多いのに対して、自発的に教団を離れた群においては、そうした主張をする者が非常に少ないということだ。
元信者たちが「洗脳」や「マインド・コントロール」の説明を受け入れる動機は、自己の責任を回避できるということに尽きる。
通常、両親は多額のお金を払ってディプログラマーを雇い、犯罪になりかねないリスクを負ってまで、ディプログラミングを実行する。
信仰を失った元信者は、そこまでの犠牲を払って自分を教団から救い出してくれた両親に対して心理的負債感を負うようになる。
こうした状況下で、入信の責任を自分自身で負うのはつらいことである。
入信は自分の意思ではなく、「マインド・コントロール」されていたのだから、悪いのは教団であって自分ではないという論理を受け入れた方が、自身の責任が回避されて都合が良いのである。
【関連情報】
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解散命令請求訴訟に提出した意見書09