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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

習近平氏、EUにくさびを打ち込む

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、56日から12日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 習近平氏、フランスのマクロン大統領と会談(56日)。習近平氏、セルビアのブチッチ大統領と会談(8日)。習近平氏、ハンガリーのオルバン首相と会談(9日)。ロシアで対独戦勝記念日、欧米けん制(9日)。ガザ休戦協議、合意に達せず終了(9日)。韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が発足2年、北と緊張激化(10日)。ロシア国防相交代、異例の人事(12日)、などです。

 中国の習近平主席は55日から10日まで、欧州3カ国を訪問しました。米主導の対中包囲網にくさびを打ち込むことを狙ったものと思われます。

 織田(おりた)邦男元空将は自身のフェイスブックで513日、「鎖を切るには弱い環を切ればいい。フランス、セルビア、ハンガリーがその弱い環だ。7月からハンガリーがEU(欧州連合)の議長国になる。半年間、EUは死ぬだろう」と習氏訪問の狙いを指摘しました。

 習氏が3カ国訪問で最も力を入れたのはフランスです。
 欧州で独自外交を重視するフランスとの関係強化がもたらす重層的影響を見越したものといえます。

 マクロン大統領は首脳会談で、今夏のパリ五輪期間中の「全世界での休戦」を訴える方針で習氏と一致したと、記者会見で明らかにしました。
 さらに、軍事転用可能な製品の輸出管理を習氏が厳格に行うと「約束した」と述べています。

 ロシアが、中国などから半導体をはじめとする軍民両用の物資を輸入し、兵器の製造に流用している―。この点をマクロン氏はけん制し、中露の接近に懸念を示したのです。
 しかし習氏は、このことについて共同記者会見で言及することはありませんでした。

 習氏は8日、セルビアのブチッチ大統領と首都ベオグラードで会談しました。
 「一帯一路」に参加しているセルビアと経済、農業、科学分野などの協力の拡大を会談後の記者会見で表明しています。

 習氏がセルビアに到着した57日は、コソボ紛争が激化した1999年、NATO(北大西洋条約機構)軍が当時の旧ユーゴスラビアの首都だったベオグラードの中国大使館を誤爆し、死傷者が出たまさにその日でした。25年目に当たります。

 こうした「歴史」を共有するセルビアと中国は「一帯一路」の旗印の下、高速道路や鉄道などの整備を続けてきたのです。

 セルビア国営放送によれば、ブチッチ氏は8日、習氏を歓迎するために集まった聴衆に、「われわれは中国の(領土の)一体性、つまり台湾は中国だとの明確な見解を持っている」と述べたというのです。

 さらに9日、習氏はハンガリーのオルバン首相と会談しました。
 両国はインフラ整備や投資拡大、原子力協力などを巡る18の合意文書や覚書に署名しました。

 習氏は、2国間の関係を「新時代における全天候型の包括的戦略パートナーシップ」に格上げすることを両首脳間で確認したと述べ、さらに中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の一環として、ブダペストとセルビアの首都ベオグラードを結ぶ中国資本主導による高速道路計画の実現を急ぐ考えを明らかにしたのです。

 今後、プーチン氏は1516日に中国訪問を調整しているといわれ、日本、中国、韓国3カ国の政府は、2627日を軸に約4年半ぶりの首脳会談を韓国・ソウルで開催する方向で調整中です。

 米国が「パレスチナ」で苦闘する中、中露の外交攻勢が大きな障害となる可能性も否定できません。



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