世界はどこに向かうのか 297
米大学で反イスラエルデモ、裏で動く中国とロシア

2024.05.07 17:00

世界はどこに向かうのか
～情報分析者の視点～

米大学で反イスラエルデモ、裏で動く中国とロシア

渡邊芳雄（国際平和研究所所長）

　今回は、4月29日から5月5日までを振り返ります。

　この間、以下のような出来事がありました。

　米大学に警官隊突入、デモ隊排除（4月30日）。中国、改正国家秘密保護法を施行（5月1日）。中国3隻目の空母「福建」が出航と、新華社通信が報道（1日）。バイデン大統領、米大学での反イスラエル抗議デモを批判（2日）。北朝鮮が韓国の在外公館へのテロ計画か、韓国政府が5カ所で警戒引き上げ（2日）、などです。

　今、米国各地の大学でイスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃に抗議するデモが拡大しています。
　バイデン大統領は5月2日、大学構内で警察と衝突したデモ隊について、「抗議する権利はあるが、混乱を引き起こす権利はない」と強く批判しました。

　拡大のきっかけは4月18日、ニューヨーク州コロンビア大学で起きた学生と警察との衝突です。
　学生らが大学敷地内にテントを張って野営し、イスラエルへの抗議デモを行い、校内は彼らによって占拠されたのです。

　大学当局の要請により、警察がデモ隊を排除するためキャンパスに突入し、その日、100人以上が逮捕されました。
　この大量逮捕に対して、各地の学生の反発を招くことになり、連帯を呼びかける動きが加速し、各地に広がってしまったのです。

　コロンビア大学での「衝突」は4月30日深夜にも起こりました。
　抗議行動を行う学生らは「ハミルトンホール」と呼ばれる建物を占拠していましたが、排除されました。
　この建物は1968年にベトナム戦争に反対する抗議デモが行われた象徴的な場所として知られています。

　4月30日時点で、エール大やプリンストン大など約30校で抗議デモが起きており、計1000人以上の学生らが拘束されました。

　5月2日未明、カリフォルニア大学ロサンゼルス校（UCLA）で、数百人の警察隊がキャンパスに突入し、デモ隊の強制排除に乗り出しています。
　CNNによれば、同校では4月30日から5月1日未明にかけて、デモ隊と「イスラエル支持派」が衝突し15人が負傷、一人が入院したといいます。（逮捕者累計2000人超、5月2日現在）

　注目すべき報道内容があります。
　ニューヨーク・タイムズは5月2日、米国各地の大学で反イスラエル抗議活動が激化している背景に、中国やロシアの情報機関による世論分断工作があるとの分析記事を掲載したのです。

　「情報機関」がデモへの取り締まりを批判する投稿や動画をSNS（交流サイト）で拡散することで、大統領選を前に世論の対立を深める意図があるというのです。
　複数の米国内の研究機関の分析結果として報じています。

　中国の公安部との関わりが指摘されている「スパモフラージュ」という工作活動では、関連するX（旧ツイッター）のアカウントを通じて学生デモを警察が取り締まる映像を、米政権を非難する文言と共に拡散していること。さらに、「ドッペルゲンガー」との異名を持つロシアの工作員が、「トゥルースゲート」というニュースサイトを米国のメディアを装って設立し、バイデン政権のイスラエル支援政策を批判する記事などを掲載し続けていることを挙げているのです。

　バイデン氏にとって今回の抗議デモの影響は大きいといわれています。
　抗議デモの中心となっているのはアラブ系の人たちです。2020年の初当選を支えた支持基盤の一つでした。

　トランプ氏は5月1日、ニューヨークのコロンビア大学で警察官が校舎に突入しデモ参加者を強制排除したことを「見ていて美しかった。素晴らしい仕事をした」と称賛。
　翌2日には、「これは急進的な左翼たちの仕業だ。この国を乗っ取らせるわけにはいかない」と発言しています。

　背景にあるロシアや中国の狙いは、国際社会の目を米国に向けさせて中東政策やウクライナ支援政策を転換させ、さらには指摘されている香港やウイグルでの人権侵害問題に対する批判の矛先を鈍らせようとするものです。
　バイデン政権は引くべきではありません。