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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

イスラエルとイラン、軍事衝突拡大の懸念

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、415日から21日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 米中の国防相が15カ月ぶりに対話再開(416日)。パレスチナの国連加盟、安保理が否決~米国が拒否権行使(18日)。韓国、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の支持率が過去最低に(19日)。中国軍に「情報支援部隊」新設、習氏主導の戦略支援部隊は廃止(19日)。イスラエルによるイラン軍事攻撃(19日)、などです。

 イスラエルが419日、イランに対する軍事攻撃を行いました。この構図が持つ深刻さは計り知れません。

 攻撃された場所はイラン中部のイスファハン空軍基地。この基地の近くには核施設があります。
 イスラエルの狙いは、核施設への攻撃能力があることを示したものと思われます。

 イスファハンの施設は、濃縮ウランの原料となる六フッ化ウランを生産する転換施設です。

 軍事攻撃の背景は極めて複雑です。
 直接的には414日のイランによるイスラエル攻撃があります。これは「初めての出来事」でした。

 イラン時間14日の午前0時過ぎ、イランの革命防衛隊が攻撃開始を発表しました。
 無人機約170機、弾道ミサイル約120発、巡航ミサイル30発超が使われたのです。

 作戦名は「真の約束」でした。
 この作戦名にも背景があります。41日、シリアの大使館領事部ビルが空爆を受けました。その直後からイスラエルの仕業とされていました。

 これを受けて最高指導者のアリ・ハメネイ師が、「邪悪な政権は罰を受ける」と報復を宣言。イランにとっては主権に関わる大使館関連施設を攻撃され、報復宣言を実行しなければ国家として面目が立ちません。何もしなければ政権を支える保守強硬派からも突き上げを食らうことになり、「有言実行」は至上命令だったのです。

 一方、イランの直接攻撃は、「イスラエルにとってあり得ない」(軍事筋)と受け止められました。
 報復しなければ、周辺のアラブ諸国やイランが支援するレバノンなどの軍事組織にも誤ったメッセージを送り、国家の安全を脅かしかねない事態に陥ると判断したのです。

 一連の両国の動きに関連した、注意しておくべきことを挙げます。
 イランによるイスラエル攻撃には、中東各地の反イスラエル武装組織「抵抗の枢軸」が一斉に加わりました。
 これを機に、各組織へのイランの影響力が改めて示された形になったのです。

 イスラエルのすぐ北側にはヒズボラ(親イラン)がいます。
 レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが所有する大量のミサイルを一度に打ち込まれれば、イスラエルの防空能力を超えた「飽和攻撃」になり得ます。

 他方、イランからの攻撃に対する迎撃には、米国、英国、ヨルダンなどが加わりました。
 各国が情報共有する多国間の防空体制が機能したと思われ、イスラエルを守る態勢ができて、ある面ではイランの孤立が表面化したのです。
 今後イスラエルは、この「多国間の防空体制」を壊すようなことはしないでしょう。

 既述のように、イランのイスラエル攻撃は14日、イスラエルによるイラン攻撃は19日で、互いに限定的攻撃でした。
 大規模な報復の連鎖につなげてはならないとの意思を現段階では共有しているのです。

 イスラエル、イランの衝突の影響は中東地域に限定されず、地球規模です。
 米国が今以上に中東に関与すれば、インド太平洋地域などへの目配りがおろそかになります。
 米国の抑止力の低下により「台湾有事」への懸念が高まるのです。世界はさらに複雑化しています。



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