2024.04.08 22:00
宣教師ザビエルの夢 36
アプリで読む光言社書籍シリーズとして「宣教師ザビエルの夢」を毎週月曜日配信(予定)でお届けします。
1549年8月15日、鹿児島に一人の男が上陸した。家族や故郷を捨て、海を渡った男が、日本で夢見たものは何か。現代日本に対する彼のメッセージを著者が代弁する!(一部、編集部が加筆・修正)
白石喜宣・著
第三章 キリスト教公認への道のり
二、アレキサンドリア学派の登場
●観想する神学者オリゲネス
アレキサンドリアで活躍した教父でひときわ異彩を放っているのが、クレメンスの薫陶を受けたオリゲネスです。教父学の専門家アマンは、彼をアウグスティヌスに比肩する人類の天才として、「学者的な広範なしっかりとした知識、人間的な感激と真摯さ、キリスト教徒の宗教的な長所、使徒と殉教者の火のような魂に驚嘆すべきだ」と述べています。(アダルベール・アマン著、家入敏光訳、『教父たち——生涯と作品入門』エンデルレ書店、1972年)
185年生まれのオリゲネスは、殉教者の子です。信仰深い父親によって、厳格ながら愛情深く育てられました。父親の姿は、彼にとっては生涯を導く信仰の模範、理想の人格であり、また、天の善き父を想起させるものでした。その父を誇りとし、自らも殉教にあこがれつつ生き続けたのです。
オリゲネスは、当時の教養人が身につけるべき学問を学んだ後は、先例に倣い私塾を開き、ギリシア文学を教えるとともに、キリスト教入門、並びに聖書を講じていました。清貧の生活に甘んじながら、そこで多くの青年たちに、信仰の炎を燃えたたしめたのです。また真理を求める非キリスト者たちもそこに集まり、ギリシア文明の完成として提示される、キリスト教の知恵を学んでいたに違いないのです。
彼の残した多くの著作の中でも、最も有名なのは『諸原理について』です。それは、中世の神学大全の先駆となるもので、世界で最初の体系的な神学書といわれています。そのように言うと、オリゲネスが非常に理知的な人物に思われます。しかし、彼の神学は机上で構築された知識の寄せ集めではなく、神の前にくずれ折れる観想の実りなのです。この著作では、神・人間・世界というテーマで思索しつつ、信仰の深化を促すものとなっています。
そして彼の探究の中心は、神のみ言葉である聖書研究でした。『祈りについて』の中では、弟子にこのように書き送っています。「あなたが聖書を読むとき、心をこめて信仰の精神をもって、多くの人々に汲まれているもの、聖書の霊を探しなさい」と。アレキサンドリア学派の伝統に立つ聖書解釈が、彼の中にあります。それは聖書の字句どおりの意味だけでなく、背後に潜むより霊的な意味を常にくみ取ろうという、聖書研究の姿勢なのです。(鈴木宣明著、『福音に生きる——霊性史』聖母の騎士社、1994年)
彼のキリスト教思想における貢献は、聖書の黙想を中心とし、神秘の極みに神の真理を観てとることを示し続けたことでした。み言葉の探求者、実践者は、神学と霊性の総合を果たし、キリスト教の伝統を培いました。
オリゲネスは晩年、ローマ皇帝デキウス帝の時の迫害に遭い、捕らえられ拷問を受けましたが、釈放されました。しかし、それがもとで間もなくこの世を去ります。それは250年代の初めごろといいます。語るにおいて教師、行いにおいて信仰の実践者、接する者をしてキリストの愛に燃え立たせる宗教的人格でした。彼こそは、殉教の道を理想としつつ、生涯をキリスト教思想形成にささげた偉大なる人物、キリスト教思想の巨人だといえます。
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次回は、「修道生活の始まり」をお届けします。