2024.03.25 22:00
facts_3分で社会を読み解く 8
米国の学界と法廷で否定された「マインド・コントロール」
ナビゲーター:魚谷 俊輔
東京地裁で審理されている世界平和統一家庭連合に対する解散命令請求訴訟に、私が提出した意見書の内容紹介の3回目である。
私は米国の統一神学大学院で宗教社会学を履修したことがある。
その時使われたのが、米国の大学で宗教社会学の教科書として広く用いられているキース・A・ロバーツの『社会学的視点から見た宗教』だった。
この本は、宗教的回心を「洗脳」や「マインド・コントロール」で説明することに対して否定的だった。それは今でも変わらないようだ。
米国の宗教社会学者マイケル・W・アシュクラフトは2018年に『新宗教研究の歴史概論』という本を出版したが、主流の新宗教研究は、以下の前提に基づいていると論じている。
第一に、一般的に理解されている「カルト」という概念には科学的な中身がなく、特定の団体を差別するために使われる言葉なので、使うべきでない。
第二に、「洗脳」という概念自体が、不人気な宗教を差別するために用いられる疑似科学である。
これは少なくとも西洋においては、この分野の大部分の学者たちによって共有された考え方であり、こうした実情は日本の宗教学者たちにも知られている。
埼玉大学非常勤講師の大田俊寛氏は、「国内外を問わず、各分野の専門的研究者の多くはマインド・コントロール論に対して批判的・懐疑的であり、その理論を支持したり、何らかの現象の分析に使用したりする者は、きわめて僅少というのが実情である」と述べている。
米国における「マインド・コントロール論」の理論的支柱は、反カルト運動に専念する心理学者マーガレット・シンガー博士らの研究であった。
彼女は新宗教に関連する裁判で専門家として証言し、新宗教の信者たちは自由意志を奪われていると主張した。
しかし彼女の主張は、米国心理学会、米国キリスト教協議会、科学的宗教研究学会などによって、科学的な意味を持たず、全ての宗教活動に対する脅威である、などと批判されることによって権威を失った。
そして最終的には1990年の「アメリカ合衆国対フィッシュマン」の裁判で彼女の証言が拒否されることにより、シンガー博士は米国の裁判で「洗脳」や「マインド・コントロール」に関する専門家として証言できなくなった。
これは「マインド・コントロール理論」が米国の法廷で決定的な敗北を喫したことを意味する。
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