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シリーズ・「宗教」を読み解く 309
修道院の祈り⑦
「主の祈り」

ナビゲーター:石丸 志信

 3世紀半ばに活躍した一人の教父にカルタゴの司教聖キプリアヌス(3世紀初頭~258年)がいる。
 この時代のローマ帝国は、蛮族の侵入により「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」が破られ、危機的状況にあった。

 デキウス帝とヴァレリアヌス帝の時代、国民の団結を図る必要に迫られた皇帝は、ローマの伝統とは異質の思想と信仰であるキリスト教を敵視し弾圧した。この時の殉教者が聖キプリアヌスだった。

聖キプリアヌス(ウィキペディアより)

 聖キプリアヌスは、信徒たちに平易で実践的な言葉で語りかける善き牧会者だった。
 彼の遺(のこ)した小著に、キリスト者が最も大切にしている「主の祈り」についての解説がある。
 修道院の祈りが詩篇を中心に編まれていたが、それ以上に重視されたのが「主の祈り」だ。

 聖キプリアヌスは「主の祈り」をこのように祈りなさいと勧める。

 「最愛なる兄弟の皆さん、私たちは自分たちの教師である神から教えられた通りに、忠実に祈ろうではありませんか。…だから自分の祈りをするとき私たちは、あたかも御父がそこに御子の言葉を見つけ出されるように、私たちの心の中に住まわれるキリストが、私たちの言葉にも現われ出られるように祈るべきです」

 聖キプリアヌスは、祈りの姿勢について注意を促し、祈りの言葉一つ一つに注意を払い、その中にキリストの臨在を感じながら祈るよう説いている。
 さらに、個人の祈りではなく、共同体の祈りとしてささげるものだと教える。

 「平安と和合との教師である主は、私たちが各自、単独で祈ること、いわばただ自己一身のためにだけ祈るような、そうした祈りを望んではおられませんでした。
 …神は平和と和合との教師であります。ゆえにかれは万物の一致を奨め、またかれが私たち人類のために犠牲となって下さったようにひとりびとりがすべての人のために祈ることを主は望んでおられるのです」

 「最愛の兄弟の皆さん、私たちが天に在す父を呼び求める時、さらに付け加えることばについて考えてみなくてはなりません。それは『われらの父よ』という呼びかけが伴わなければならないことです」

 修道院の祈りも、この古代の教父の勧めに従うように、共同で祈ることを旨としてきた。
 その伝統は、創造主なる神は私の親であると同時に、人類の親であるとの意識を高めていくことになる。



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