2024.03.12 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
習近平氏、「毛沢東体制」への回帰か
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、3月4日から10日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
米最高裁、トランプ氏立候補容認(3月4日)。中国の全国人民代表大会(全人代)が開幕(5日)。トランプ氏、イスラエル支持明言(5日)。中国、「反スパイ法」で留学生減少~北京大教授が改善提案(6日)。スウェーデン、NATO(北大西洋条約機構)に加盟(7日)、などです。
3月5日から11日、全国人民代表大会が北京で開催されました。
そこで、中国の最上位「核心的利益」である中国共産党独裁体制、習近平独裁体制の完成に向かう「体制改革」がなされたことを象徴する出来事がありました。
大会前日(4日)、婁勤倹全人代報道官が、1988年から30年以上にわたって続けられてきた全人代閉幕後の「中国首相による記者会見」を、今年から取りやめることを発表したのです。
集まった150人を超す内外の報道陣から驚きの声が上がったといいます。
この出来事は、国内外のメディアが「政策の司令塔」である首相に質問をぶつけられる数少ない機会がなくなったということ以上に、「首相権限」の低下を明確に示したことになったのです。
中国の政治体制はこれまで「党の指導」の下、政策決定は政府が担ってきました。すなわち、国のトップは党総書記ですが、首相が大きな意思決定の権限を握ってきていたのです。
この体制は、党と政府の権力配分を巡る長年の闘争の末に鄧小平最高指導者の下でつくられたものでした。
毛沢東は1949年の新中国(中華人民共和国)建国以降、自身の権力が新政府や首相に移行し始めたことに不満を抱いたのです。
そこで断行したのが「党政不分」といわれる組織改革でした。しかしこの制度の下で始まった「大躍進政策」は大失敗となり、多くの餓死者を生む結果となったのです。
鄧小平はその反省から、「一人の知識や経験、精力には限りがある」として同制度を廃止し「党政分離」の体制をつくり上げたのです。それがこれまでの体制でした。
ところがこのたび習氏は、あの「毛沢東体制」(党政不分)を選択したのです。
焦りが背景にあるかもしれませんが、長期的な取り組みの結果であるという一面もあります。
今後の展開、特に台湾への対応がどのようになるのか注目しておかなければなりません。
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