2023.10.03 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
ナゴルノカラバフ共和国の「解散」
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、9月25日から10月1日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
韓国10年ぶり大規模軍事パレード(9月26日)。北朝鮮、憲法に「核戦力を高度化」を明記(27日)。北朝鮮追放の米兵(トラビス・キング氏)帰国(28日)。アルツァフ共和国(ナゴルノカラバフ共和国)サンベル・シャフラマニャン大統領、政府機関を「解散」する法令に署名(28日)、などです。
旧約聖書にある「ノアの箱舟」が、大洪水の後にとどまった所は「アララテの山地」(『聖書』新改訳聖書センター)と記されています。
それは現在、トルコとアルメニアの国境に位置するアララト山であるとの説を耳にしたことがあるでしょうか。
そのアルメニアの同盟国であるアルツァフ共和国(ナゴルノカラバフ共和国)が「解散」するというのです。
サンベル・シャフラマニャン大統領が9月28日、来年1月1日をもってこの地域を統治している政府機関を「解散」する法令に署名しました。
アルメニアとアゼルバイジャンは国境を接する隣国です。
ナゴルノカラバフは、かつて旧ソ連内でアゼルバイジャンの自治州でした。しかし、多数派のアルメニア系住民が1988年、アルメニアへの編入を要求したことを契機に、両共和国(アゼルバイジャンとアルメニア)間の紛争に発展してしまったのです。その時、2万人前後とされる死者を出しました。
旧ソ連の軍事的後ろ盾があって1991年、一方的に独立が宣言されアルツァフ共和国(ナゴルノカラバフ共和国)が誕生しました。
その後、ソ連崩壊後の1994年に停戦。これまでアルメニア人勢力の実効支配が続いてきており、アルメニアはそれを支持してきていたのです。
2020年9月にも軍事衝突が起きています。アゼルバイジャン側はトルコの支援による無人機などで攻勢を強め、多くのエリアで支配権を回復し、双方で計6500人超が死亡したといわれています。
この時、ロシアは仲介に徹しており平和維持部隊を投入しています。
ところが9月19日、トルコ、イスラエルからの支援を得たアゼルバイジャンが「対テロ作戦」を名目に軍事侵攻し、3日後にはナゴルノカラバフのアルメニア人は全面降伏したのです。
アルメニアとロシアは同盟関係です。そのロシアの後ろ盾でアルツァフ共和国(ナゴルノカラバフ共和国)は独立し、ロシアは停戦維持のための平和維持部隊も送っていました。
しかしこのたびは全く動きませんでした。それだけでなく、ロシアはアルメニア批判に回っているのです。この「裏切り」の背景にあるのはウクライナ戦争といわなければなりません。
アルメニアのパシニャン首相は今春、この地域(ナゴルノカラバフ)について、アゼルバイジャン側の主権を認める考えを表明するなど、和平に向けた譲歩の姿勢を示していました。同時に最近、紛争を巡るロシアの支援が薄れたことへの不満から対ロシア依存脱却と欧米接近の動きを加速していました。
9月6日にはパシニャン氏の夫人アンナ氏がウクライナの首都キーウを訪問し、人道的支援の用意があることを明かしています。
ロシア外務省は8日、これら一連のアルメニアの動きについて、「アルメニア指導部はここ数日、非友好的な行動を取っている」と批判する声明をホームページに掲載していました。
特にアルメニアが20日まで、首都エレバン近郊で10日間にわたって米国との合同軍事演習を実施していました。
この間隙(かんげき)を縫ってアゼルバイジャンが軍事行動を起こしました。ウクライナ侵略で余力のないロシアは、アゼルバイジャンやその後ろ盾であるトルコとの関係を優先させたのです。
関係国それぞれの言い分はありますが、「力による現状変更」がいとも簡単に行われたという現実を極めて深刻に受け止めるべきでしょう。
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